技術の進化はすさまじく、今でも膨大な量の研究が行われており次々と新たな発表がなされています。
それでも現代のスポーツ科学で解明できることと、解明できない技術的な限界があります。
今回は投球動作解析に用いられるモーションキャプチャーの技術的な限界について解説させていただきたいと思います。
ポイント
- モーションキャプチャーによる投球動作解析では靭帯の負荷を算定するのに限界があります
- 高度なテクノロジーで投球時の靭帯の負荷を詳細に算定する方法があります
- 高度なテクノロジーは計算過程が複雑になり予期せぬエラーが発生する可能性があります
モーションキャプチャーによる投球動作解析の限界
ピッチャーの肘の痛みについてこれまで多くの研究が行われてきました。
モーションキャプチャーという設備を使うことでピッチング動作を細かく解析でき、肘にかかっている負荷を算定することができます。
しかし、なんでも調べることができる万能な設備というわけではありません。
その限界のひとつが、ピッチング動作によってどのくらい靭帯に負荷がかかっているのかを直接算定することが難しいという技術的な限界があります。
モーションキャプチャーで算定できるのはあくまで肘全体にかかる負荷であり、ひとつひとつの筋肉や靭帯への影響まで細かくわかるわけではありません。
骨格筋モデルでより詳細な解析を
ひとつひとつの筋肉や靭帯への負荷を評価できないという従来の方法の弱点を打ち破る可能性があるのが、「骨格筋モデル」と呼ばれる技術です。
参照https://www.drivelinebaseball.com/2017/03/computed-muscle-control-analysis-pitching-mechanics/
この技術の凄いところは、ひとつひとつの筋肉や靭帯の機能をコンピューター内で再現し、それらにどのような負荷がかかっているのかを詳しく調べることができることです。
(Buffi et al 2015より引用)
例えば、上の図のように上腕三頭筋の働きが肘の負荷を軽減できていることを可視化することができます1。
このようなピッチャーのモデルを開発した人はメジャーリーグの人気球団に採用されているようで、名門球団からも高い評価を得ることができる可能性があるわけです。
テクノロジーは凄いけれど弱点もある
すべての技術や方法に共通することですが、長所があれば短所があります。
骨格筋モデルの弱点は、筋肉の負荷などの算定はコンピューターによるシミュレーションの推定値に過ぎないということです。
実際の人の身体と違っている可能性があるため、その全てを鵜呑みにしてはいけません。
より適切な判断をするためには、コンピューターの推定値だけでなく実際の人のデータも確かめることが重要です。
- その技術がどのように計算されているのかを理解する
- 計算過程で使われているデータを実際の人間から得られた内容と比較する
- 計算結果が過去の文献と比べて大きなズレが生じていないかを確認する
まとめ
骨格筋モデルはそう簡単なものではありませんが、この技術を上手に使いこなすことで今までわからなかった肘の靭帯損傷のメカニズムを解明できる可能性があります。
<参考文献>
Buffi JH, Werner K, Kepple T, Murray WM. Computing muscle, ligament, and osseous contributions to the elbow varus moment during baseball pitching. Ann Biomed Eng. 2015;43(2):404-415