脳神経

痛みの脳科学〜痛みの嫌悪感と前帯状皮質の関係

痛みと脳神経には様々な部位が関わっており、複雑な神経伝達が行われています。こうした脳神経の働きを知ることで慢性的な痛みのメカニズムを深く理解するキッカケになるかもしれません。

今回は脳神経の中でも前帯状皮質に焦点を当てて記事を書かせて頂きたいと思います。

 

  • 前帯状皮質は痛みによる嫌悪感など、感情や情動の認知学習に関わっています。
  • 痛みが慢性化してくると前帯状皮質の働きが低下する傾向にあるようです。
  • うつ病の治療においては前帯状皮質が適切に働いていることで、その後の治療効果が高い傾向にあるそうです。

 

前帯状皮質(Anterior cingulate cortex: ACC)

一般的に前帯状皮質は血圧や心拍数などの自律神経の調整、共感や情動といった認知機能にも関わっていると考えられています。

前帯状皮質Anterior cingulate cortex

そして前帯状皮質の働きが低下することで、認知や行動に影響が及ぶようです

 

痛みと前帯状皮質

痛みを抱えていると前帯状皮質が反応しますが、慢性的な痛みでは前帯状皮質の働きに変化が生じることがあります。

痛みと脳神経

  • 慢性痛を抱えている人達は前帯状皮質の働きが低下している傾向にあるそうです
  • 予測できない痛みが襲ってくる状況下では前帯状皮質の働きが増加し、予測できる痛みにおいては前帯状皮質の働きが低下することが報告されています3〜5
  • マウスによる実験で前帯状皮質を損傷させたところ、痛みを感じる程度は変わらないが痛みによる嫌悪感やうつの症状が減ったことが報告されています6〜8

このように痛みが慢性化してくると前帯状皮質の働きが低下し、身体の異常を感じにくくなることも考えられるのではないでしょうか。

 

うつ病と前帯状皮質

うつ病と前帯状皮質には密接な関わりがあります。

  • うつ病の治療薬を投薬する前の段階で前帯状皮質の活動が大きかったグループは投薬による治療効果が高かったことが報告されています。この研究では嬉しい表情と悲しい表情をつくらせた時の前帯状皮質の活動を調べています。
  • 同様の傾向はメタ分析による証明力の強い論文でも報告されており、前帯状皮質の働きはうつ秒の治療の成果の予測に役立つそうです10・11前帯状皮質だけでなく他の脳の部位にも同様の傾向がみられることもあるそうですが。

このことから前帯状皮質が適切に働くことが大切であるかと思います。

 

先ほどご紹介したように慢性痛を抱えていると前帯状皮質が働きが低下する傾向にあり、これは感情や認知などのコントロールがうまくいっていないことの表れなのかもしれません。あくまで推測に過ぎませんが・・・。

 

脳神経のネットワーク

前帯状皮質(ACC)といった脳の特定の部位の活動量だけで決まるわけではなくて、脳には複数の部位のネットワークがあり、それらの神経伝達の仕方によっても反応が変わってくることがあります。

(Bushnell et al 2013より引用)

 

背内側部視床(Mediodorsal Thalamus: MD)

前帯状皮質だけでなく、背内側部視床(MD)などのインプットも嫌悪感などの反応が変わってくることが報告されています12・13

(Gungor and Johansen 2019より引用)

 

扁桃体(Amygdala)

扁桃体も恐怖などの感情を司っており、前帯状皮質と共に働くことで痛みの認知や学習が行われて居ます13・14

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吻側延髄腹内側部(RVM)

前帯状皮質の働きは脳幹を通して脊髄への神経伝達にも影響を及ぼし、痛みの感じ方に影響を与える可能性も考えられています。

(Bliss et al 2016より引用)

  • 変形性膝関節症とともに神経の働きにより痛みを感じやすくなっている人達の膝に刺激を加えた時の脳の働きをfMRI で調べたところ、痛みを感じやすい人達は前帯状皮質とRVMの機能的結合に変化が見られたことが報告されています15
  • 一般的にはRVMと呼ばれる神経回路などが痛みの感じ方に影響を及ぼすと考えられていますが、こちらの働きとは別に前帯状皮質の活動量で脊髄への痛みの神経伝達が行われる可能性もあるそうです16。あくまでこれはマウスによる実験結果となっています。

痛みをどのように感じるのかは脳の特定の部位だけでなく、脳神経のネットワークの働きによるところが大きいのかもしれません。

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まとめ

前帯状皮質は痛みによる嫌悪感などの認知や学習に関わっています。慢性的な痛みを抱えていると前帯状皮質の働きにも変化が生じることがあり、これが痛みを長期化させてしまう要因になるかもしれません。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

<参考文献>

  1. Cecil KM, Brubaker CJ, Adler CM, et al. Decreased brain volume in adults with childhood lead exposure. PLoS Med. 2008;5(5):e112. doi:10.1371/journal.pmed.0050112
  2. Bushnell MC, Čeko M, Low LA. Cognitive and emotional control of pain and its disruption in chronic pain. Nat Rev Neurosci. 2013;14(7):502-511. doi:10.1038/nrn3516
  3. Hsieh JC, Stone-Elander S, Ingvar M. Anticipatory coping of pain expressed in the human anterior cingulate cortex: a positron emission tomography study. Neurosci Lett. 1999;262(1):61-64. doi:10.1016/s0304-3940(99)00060-9
  4. Apkarian AV, Bushnell MC, Treede R-D, Zubieta J-K. Human brain mechanisms of pain perception and regulation in health and disease. Eur J Pain. 2005;9(4):463-484. doi:10.1016/j.ejpain.2004.11.001
  5. Sawamoto N, Honda M, Okada T, et al. Expectation of pain enhances responses to nonpainful somatosensory stimulation in the anterior cingulate cortex and parietal operculum/posterior insula: an event-related functional magnetic resonance imaging study. J Neurosci. 2000;20(19):7438-7445.
  6. Barthas F, Sellmeijer J, Hugel S, Waltisperger E, Barrot M, Yalcin I. The anterior cingulate cortex is a critical hub for pain-induced depression. Biol Psychiatry. 2015;77(3):236-245. doi:10.1016/j.biopsych.2014.08.004
  7. Johansen JP, Fields HL, Manning BH. The affective component of pain in rodents: direct evidence for a contribution of the anterior cingulate cortex. Proc Natl Acad Sci U S A. 2001;98(14):8077-8082. doi:10.1073/pnas.141218998
  8. Qu C, King T, Okun A, Lai J, Fields HL, Porreca F. Lesion of the rostral anterior cingulate cortex eliminates the aversiveness of spontaneous neuropathic pain following partial or complete axotomy. Pain. 2011;152(7):1641-1648. doi:10.1016/j.pain.2011.03.002
  9. Godlewska BR, Browning M, Norbury R, Igoumenou A, Cowen PJ, Harmer CJ. Predicting Treatment Response in Depression: The Role of Anterior Cingulate Cortex. Int J Neuropsychopharmacol. 2018;21(11):988-996. doi:10.1093/ijnp/pyy069
  10. Pizzagalli DA. Frontocingulate Dysfunction in Depression: Toward Biomarkers of Treatment Response. Neuropsychopharmacol. 2011;36(1):183-206. doi:10.1038/npp.2010.166
  11. Fu CHY, Steiner H, Costafreda SG. Predictive neural biomarkers of clinical response in depression: a meta-analysis of functional and structural neuroimaging studies of pharmacological and psychological therapies. Neurobiol Dis. 2013;52:75-83. doi:10.1016/j.nbd.2012.05.008
  12. Meda KS, Patel T, Braz JM, et al. Microcircuit mechanisms through which mediodorsal thalamic input to anterior cingulate cortex exacerbates pain-related aversion. Neuron. 2019;102(5):944-959.e3. doi:10.1016/j.neuron.2019.03.042
  13. Gungor NZ, Johansen J. A Chronic Pain in the ACC. Neuron. 2019;102(5):903-905. doi:10.1016/j.neuron.2019.05.021
  14. Toyoda H, Li X-Y, Wu L-J, et al. Interplay of Amygdala and Cingulate Plasticity in Emotional Fear. Neural Plasticity. 2011;2011:e813749. doi:10.1155/2011/813749
  15. Soni A, Wanigasekera V, Mezue M, et al. Central Sensitization in Knee Osteoarthritis: Relating Presurgical Brainstem Neuroimaging and PainDETECT-Based Patient Stratification to Arthroplasty Outcome. Arthritis Rheumatol. 2019;71(4):550-560. doi:10.1002/art.40749
  16. Chen T, Taniguchi W, Chen Q-Y, et al. Top-down descending facilitation of spinal sensory excitatory transmission from the anterior cingulate cortex. Nat Commun. 2018;9(1):1886. doi:10.1038/s41467-018-04309-2
  17. Bliss TVP, Collingridge GL, Kaang B-K, Zhuo M. Synaptic plasticity in the anterior cingulate cortex in acute and chronic pain. Nat Rev Neurosci. 2016;17(8):485-496. doi:10.1038/nrn.2016.68

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