脳神経

筋力トレーニングによる神経の働きの変化

怪我によって神経の働きが低下することがあり、それが機能低下やさらなる負荷の増加へとつながることがあります。こういったことを防ぐために治療やリハビリが行われますが、トレーニングによって神経の働きがどのように変化するのか?について解説していきたいと思います。

 

ポイント

  • 筋力トレーニングによって筋肉に送られる信号が強化されます。
  • 一方で脳や中枢神経の働きが必ずしも大きくなるわけではありません。
  • 中枢神経の働きは身体の動かし方によっても左右されます。

 

トレーニングによる筋力の強化

トレーニングによって筋肉が大きくなるなど組織的な変化により筋力が強くなることはもちろんのこと、筋肉に関わる神経にも多少の変化が生じます。

筋力トレーニングによって筋肉への信号が強化されたり、筋繊維の動員が増えたり、動員できる筋繊維の種類が変化したり、こういった神経の変化によっても筋力発揮が強化されるわけです。

筋肉と神経

 

皮質脊髄路(Corticospinal Tract)

中枢神経の評価のひとつとして皮質脊髄路の興奮度(Corticospinal Excitability)というものがあり、これが筋力発揮等に影響を及ぼすのではないか?という考え方があります。

脳神経と脊髄

 

 

怪我による中枢神経の働きの低下

大きな怪我によって中枢神経の働きが低下することがあり、脳からの信号にうまく反応できないことが起こり得ます。

例えば前十字靭帯断裂した人には皮質脊髄路の興奮度の低下という特徴がみられ、これが筋力発揮抑制の原因のひとつとして考えられています。

脳
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筋力トレーニングの効果の賛否両論

筋力トレーニングが中枢神経に及ぼす効果に関する研究結果には賛否両論あります

  • 前十字靭帯断裂した人へのトレーニングで皮質脊髄路の興奮度が減少したという研究報告があり、怪我をした人でなく同様の健康な人にも同様のことが報告されています3・4
  • 一方で異なる研究結果も報告されており、筋力トレーニングによって皮質脊髄路の興奮度が高まったという研究結果もあります5〜7

 

証明力が強い論文による結論

意見が分かれている時には証明力が強いsystematic reviewの論文を参考にするのがひとつです。

どうやら筋力トレーニングで皮質脊髄路の興奮度に大きな変化はないようです

(Kidgell and Pearce 2010より引用)

  • 運動閾値(motor threshold)、運動誘発電位(MEP)、latencyには変化がみられないようで、これが皮質脊髄路の興奮度に影響はないとする理由となっているのではないかと思います。
  • その一方で筋力トレーニングによって上記の図ようにSilent period(SP)が減少する可能性はあり、これが筋力増加との相関関係がみられたそうです
  • Silent periodは神経の働きを抑制する神経伝達物質のGABAなどとの関係性が報告されています10

色々とごちゃごちゃ書かせていただきましたが、筋力トレーニングによる中枢神経への効果を過度に期待しすぎないほうがいいかもしれません。

 

スキルトレーニング

中枢神経の反応は動きの種類によって左右される可能性があります。

  • 筋力トレーニングでは皮質脊髄路の興奮度に変化はみられないものの、興味深いことにスキルトレーニングでは変化がみられたことが報告されています11
  • 関節を固めるような筋肉の共同収縮によって皮質脊髄路の興奮度が減少したことが報告さています12

このように皮質脊髄路の興奮度は動きの種類によって左右される可能性があり、筋力に必ずしも比例するわけではないようです。

 

H反射(H-reflex)

筋肉と神経を評価にH反射を用いられることがあります。トレーニングによるH反射への効果も見ていきましょう。

(Zehr 2002より引用)

そもそもH反射とは何ぞや?ということはこちらで解説させていただいています。

H反射とは?

筋肉と神経の働きを調べるためにH反射というものが用いられることがありますが、そのメカニズムを知らないと誤解が生まれてしまうこともあるかと思います。 そこでH反射の仕組みや解釈の注意点などを記載していき ...

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筋力トレーニングによる効果

残念ながら筋力トレーニングでH反射にあまり変化はないようです。

  • 筋力トレーニングによってH反射は変わらないことが多いことが研究で明らかになっています1・13
  • パワー系のアスリートよりもトライアスロンなど持久力が求められるアスリートのほうがH反射が高い傾向にあることが報告されています14・15

このように議論はありますが筋力トレーニングによってH反射を高めることには限界があるかもしれません。

 

怪我のリハビリによる効果

怪我によって神経の反射が変化しますが、怪我をしたら単純に反射が落ちるというわけでもなく色々な状況によって変化していきます。

捻挫

  • 足首への負荷がかかった直後はH反射が高まります、その一方で慢性的に捻挫を繰り返している状態ではH反射が弱くなることもあります。
  • 痛みなども筋肉のH反射に影響をしているため16、治療やリハビリによる痛みの改善なども筋肉の反射に影響を与える可能性があります。
  • 6週間のバランストレーニングでH反射が改善したという報告があります17

このように怪我からの筋肉の反射の改善は、トレーニングによる成果だけでなく負傷部位の状態や治療、リハビリなどによって変わっていく可能性があります。

 

捻挫グセと神経による影響

捻挫をすることで靭帯への損傷だけでなく、筋肉の活動や神経の反応にまで影響が及ぶことがあります。そこで捻挫を繰り返している人の神経がどのように変化をしているのかについて書かせていただきたいと思います。 ...

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競技特性による神経反射の適応

競技によっては神経の適応の仕方が異なることがあり、時に興味深い反応を示すことがあります。

バレエダンサー

  • バレエダンサーのヒラメ筋のH反射は低い傾向にあることが報告されています18
  • 筋肉の共同収縮(co-contraction)によってH反射が抑制されることが報告されています12。というのも筋肉の反射があると関節を固めるような動きに適さないためと考えられています。

このようにトレーニングによる神経の反射への影響は、どのような動きを用いるのかによって変わってくる可能性があります。

 

脳の働き

筋力トレーニングによって簡単に筋肉を動員できるようになり、脳からは少ない信号で筋力を発揮できるようになると考えられています

(Falvo et al 2010より引用)

  • 3週間の筋力トレーニングによって脳波が小さくなっていたことが報告されています19
  • このコンセプトを表す事例として、ネイマール選手が足首を動かす時の脳の働きが他のプロサッカー選手に比べて小さかったというものがあります20。他にもプロのミュージシャンは指を動かす時に脳の活動が一般の人に比べて小さい傾向にあるそうです21・22

トレーニングをすることで同じ慣れてスムーズにできるようになると脳の働きは小さくなっていく、と解釈できるかもしれません。

これはあくまで筋力トレーニングのように単純で同じ動きの繰り返しに対する脳の適応であって、より難解な動きや繊細なコントロールが求めらる動きにおいては脳は違う適応をする可能性があります。

 

まとめ

筋力トレーニングによって筋肉が強くなっていきますが、脳や神経においては必ずしも筋肉と同じような発達の仕方をするわけではないのかもしれません。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

<参考文献>

  1. Carroll TJ, Selvanayagam VS, Riek S, Semmler JG. Neural adaptations to strength training: moving beyond transcranial magnetic stimulation and reflex studies. Acta Physiol (Oxf). 2011;202(2):119-140.
  2. Gerber JP, Marcus RL, Dibble LE, Greis PE, Burks RT, LaStayo PC. Effects of early progressive eccentric exercise on muscle size and function after anterior cruciate ligament reconstruction: a 1-year follow-up study of a randomized clinical trial. Physical Therapy. 2009;89(1):51-59. doi:10.2522/ptj.20070189
  3. Carroll TJ, Riek S, Carson RG. The sites of neural adaptation induced by resistance training in humans. J Physiol. 2002;544(Pt 2):641-652. doi:10.1113/jphysiol.2002.024463
  4. Jensen JL, Marstrand PCD, Nielsen JB. Motor skill training and strength training are associated with different plastic changes in the central nervous system. J Appl Physiol (1985). 2005;99(4):1558-1568. doi:10.1152/japplphysiol.01408.2004
  5. Hendy AM, Kidgell DJ. Anodal tDCS applied during strength training enhances motor cortical plasticity. Med Sci Sports Exerc. 2013;45(9):1721-1729. doi:10.1249/MSS.0b013e31828d2923
  6. Latella C, Kidgell DJ, Pearce AJ. Reduction in corticospinal inhibition in the trained and untrained limb following unilateral leg strength training. Eur J Appl Physiol. 2012;112(8):3097-3107. doi:10.1007/s00421-011-2289-1
  7. Weier AT, Pearce AJ, Kidgell DJ. Strength training reduces intracortical inhibition. Acta Physiol (Oxf). 2012;206(2):109-119. doi:10.1111/j.1748-1716.2012.02454.x
  8. Kidgell DJ, Bonanno DR, Frazer AK, Howatson G, Pearce AJ. Corticospinal responses following strength training: a systematic review and meta-analysis. Eur J Neurosci. 2017;46(11):2648-2661. doi:10.1111/ejn.13710
  9. Kidgell DJ, Pearce AJ. Corticospinal properties following short-term strength training of an intrinsic hand muscle. Hum Mov Sci. 2010;29(5):631-641. doi:10.1016/j.humov.2010.01.004
  10. Werhahn KJ, Kunesch E, Noachtar S, Benecke R, Classen J. Differential effects on motorcortical inhibition induced by blockade of GABA uptake in humans. J Physiol. 1999;517(Pt 2):591-597. doi:10.1111/j.1469-7793.1999.0591t.x
  11. Perez MA, Lungholt BKS, Nyborg K, Nielsen JB. Motor skill training induces changes in the excitability of the leg cortical area in healthy humans. Exp Brain Res. 2004;159(2):197-205. doi:10.1007/s00221-004-1947-5
  12. Perez MA, Lundbye-Jensen J, Nielsen JB. Task-Specific Depression of the Soleus H-Reflex After Cocontraction Training of Antagonistic Ankle Muscles. Journal of Neurophysiology. 2007;98(6):3677-3687. doi:10.1152/jn.00988.2007
  13. Zehr EP. Considerations for use of the Hoffmann reflex in exercise studies. Eur J Appl Physiol. 2002;86(6):455-468.
  14. Na M, A M, N B, M P, B L, M S. Electrical and mechanical H(max)-to-M(max) ratio in power- and endurance-trained athletes. Journal of applied physiology (Bethesda, Md : 1985). 2001;90(1). doi:10.1152/jappl.2001.90.1.3
  15. Casabona A, Polizzi MC, Perciavalle V. Differences in H-reflex between athletes trained for explosive contractions and non-trained subjects. Eur J Appl Physiol. 1990;61(1):26-32. doi:10.1007/BF00236689
  16. Thompson CS, Hiller CE, Schabrun SM. Altered spinal-level sensorimotor control related to pain and perceived instability in people with chronic ankle instability. Journal of Science and Medicine in Sport. 2019;22(4):425-429. doi:10.1016/j.jsams.2018.10.009
  17. Sefton JM, Yarar C, Hicks-Little CA, Berry JW, Cordova ML. Six weeks of balance training improves sensorimotor function in individuals with chronic ankle instability. J Orthop Sports Phys Ther. 2011;41(2):81-89. doi:10.2519/jospt.2011.3365
  18. Kim G, Ogawa T, Sekiguchi H, Nakazawa K. Acquisition and maintenance of motor memory through specific motor practice over the long term as revealed by stretch reflex responses in older ballet dancers. Physiological Reports. 2020;8(2):e14335. doi:https://doi.org/10.14814/phy2.14335
  19. Falvo MJ, Sirevaag EJ, Rohrbaugh JW, Earhart GM. Resistance training induces supraspinal adaptations: evidence from movement-related cortical potentials. Eur J Appl Physiol. 2010;109(5):923-933. doi:10.1007/s00421-010-1432-8
  20. Naito E, Hirose S. Efficient foot motor control by Neymar’s brain. Front Hum Neurosci. 2014;8. doi:10.3389/fnhum.2014.00594
  21. Koeneke S, Lutz K, Wüstenberg T, Jäncke L. Long-term training affects cerebellar processing in skilled keyboard players. Neuroreport. 2004;15(8):1279-1282. doi:10.1097/01.wnr.0000127463.10147.e7
  22. Jäncke L, Shah NJ, Peters M. Cortical activations in primary and secondary motor areas for complex bimanual movements in professional pianists. Brain Res Cogn Brain Res. 2000;10(1-2):177-183. doi:10.1016/s0926-6410(00)00028-8

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