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整体での筋膜リリースの効果について

筋膜リリースなどの筋膜に対するアプローチが注目を集めています。

何にでも効くというような万能な方法はなく、筋膜がどのような性質を持っているのかを理解することがより適切な判断に役立つかと思います。

 

筋膜とは?

筋膜とは筋肉を覆っているような膜のようなもので、体温を保持したり血液を供給したりと様々な役割があります。

筋膜の動きが悪くなることで、身体動作が制限されたりと悪影響が出ることが考えられています。

筋膜の解剖は次の写真のようなもので、少しはイメージがつかめるかもしれません。

(Benjamin 2009より引用)

 

筋膜リリースとは?

筋膜リリースは英語でMyofascial releaseなどと呼ばれ、小さな力を反復的に加えて筋膜を伸ばすことなどを目的とした手技の総称を言います

とはいえ様々な広告や雑誌、SNSを見ていると、筋膜リリースと言いながらただのストレッチではないか?、ただのマッサージではないか?と思うこともしばしばあります。

肩のマッサージ

筋膜リリースの明確な定義というのは曖昧なもので、狭い範囲で言えば筋膜に効かせるもの、広い範囲で言えば身体をほぐす行為全般という印象です。

そもそも筋膜に効いているかどうか?というのは客観的に確認することは難しいので、筋膜リリースであると言ってしまえばそれが筋膜リリースになり得ます。

 

筋膜リリースの効果

筋膜リリースには様々な方法がありますが、科学的に筋膜リリースとして紹介されている方法を対象に紹介していきたいと思います。

 

手技(マッサージ・整体施術)

拳や肘を使って、筋膜を沈み込ませるように力を加えて筋膜を伸ばしていく方法があります

他にも筋膜によって動きの制限がかかっている方向に、小さな力を加えて筋膜を伸ばし、緩めるという方法もあります

(Ajimsha et al 2012より引用)

これらの手技は腰痛などの痛みを軽減させる効果があることが研究で明らかになっています

 

フォームローラー

自分自身でできる筋膜リリースの方法として有名なものがフォームローラーを使った方法です。

丸い筒状のものに体重を乗せて、ぐりぐりと身体を前後左右に動かすことで身体をほぐしていくものです。

フォームローラーによる筋膜リリース

フォームローラーを使うことで可動域の向上や筋肉痛の抑制などの効果があることが報告されています

一方でフォームローラーに痛みを減らす効果があるという科学的根拠は乏しいのが現状です

 

アナトミートレイン

アナトミートレインには強い科学的根拠があるわけではありませんが、とても有名なので記載させていただきます。

参照https://www.youtube.com/watch?v=0Qp1BSj3QG4

体全体が筋膜でつながっているから、連動性があり、離れたところにも効くというようなコンセプトでしょうか。

こういった筋膜の概念の素晴らしいところは、従来の科学では説明できなかった不思議な現象に対してひとつの考え方を提供した点にあります。

 

こういったテクニックを正式に学ぶのには数十万円や数百万円といった大金がかかります。

私自身も若い時に凄い方法だ!と熱狂したものですが、時間の経過とともに筋膜に対する科学的な検証が進んでいくことで、

本当に筋膜にそこまでの効果があるのか?という疑問を投げかける研究結果もちらほら見受けられるようになってきました。

 

筋膜のメカニズム

筋膜にはどのような働きがあるのか、そのメカニズムを科学的根拠を交えながら説明していきたいと思います。

 

筋膜による遠隔部への効果

身体は筋膜でつながっているから、離れたところにも効果を生み出すという考え方があります。

参照https://www.jerichophysio.com/tensegrity-and-your-fascia-a-whole-body-approach-to-treatment/

筋膜が身体全体につながっていることは、テンセグリティ構造と呼ばれる建築の概念に例えられることがあります。

次の図のように、1箇所に力を加えると張力が全体に波及していく構造があります。

参照https://www.anatomytrains.com/fascia/tensegrity/

人を解剖した研究では近接する部位で最大で25%の力が伝達するという研究結果もありますが、より離れた部位になると筋膜を介して引っ張られる力は小さくなっていきます

実際に生きている人間にMRIを使って筋膜を検証したところ、筋膜が引っ張られる効果は上記の解剖の研究結果よりも小さいことが確認されています

(Jan et al 2018より引用)

こういったことから筋膜が遠く離れた場所に影響を及ぼす効果はそこまで大きくないのではないか?という議論がなされています。

 

筋膜は簡単には伸びない

マッサージなどの手技で筋膜を伸ばすのは難しいという考えがあります

基本的に筋膜は丈夫な作りになっていて、例えば1.8cmの太さの筋膜を伸ばすのには数十キロの力が必要です

マッサージなどの小さな力ではこのような力を加えることが難しく、フォームローラーに筋膜を伸ばす効果があるという根拠は乏しいという論文もあります

筋膜リリースでは筋膜自体が伸びるようになるわけではなく、あくまで筋膜と周辺組織との癒着などがほぐれることで筋膜がスライドしやすくなり、結果的に柔軟性が改善されるという効果もあります10

実際に慢性的な腰痛を抱えている人は筋膜がスライドしにくく、可動域が低下していることが報告されています11

(Helene et al 2011より引用)

 

筋膜の痛覚神経

近年では腰の筋膜にも痛みに関わる神経が存在していることが明らかになり、これが原因不明の腰痛と関係しているのではないか?と議論が行われています12

神経伝達

筋膜には筋肉の数倍もの密度の感覚神経があるという研究結果もあり13・14、筋膜は特定の種類の痛みを感じやすい可能性があることはわかってきています15・16

そして実際に慢性的な腰痛を抱えている人の腰の筋膜を採取して解析したところ、筋膜の神経の構造に大きな異常は見当たらなかったという研究結果が報告されています17

しかし、筋膜の神経の密度が高くとも筋膜の体積は小さく神経細胞の数が限られていることから、筋膜が痛みの感じ方に圧倒的な影響を及ぼす可能性にはまだまだ疑問が残ります。

筋膜の痛覚神経の働きが異常になり痛みを感じやすくなるという可能性も考えられますが、まだまだ研究数も少なく証明力が弱いのが現状ではないかと思います。

 

筋膜の質的変化

慢性的な腰痛に筋膜の構造の変化も関与しているのではないか?ということも注目されることがあります。

慢性的な腰痛を抱えている人達は腰の筋膜に炎症を起こし17、筋膜が硬く厚みが増している傾向にあり18、さらには筋膜が短くなっていることが報告されています19

腰痛

このような研究結果をみると筋膜が腰痛の原因だ、と思うかもしれませんが、他にも筋肉なども炎症を起こしますし、厚みが変化するというのは特別なことではありません。

筋肉や椎間板など人体の様々な組織に似たような現象が起こるわけでして、筋膜だけに限った特別な事象ではなく、痛みの原因と断言できるほどのものではありません。

もちろん筋膜だけに特別な機能が隠されている可能性がゼロではありませんので、今後の研究成果が楽しみなところではあります。

 

筋膜リリースのメリット

筋膜のメカニズムには賛否両論がありますが、筋膜リリースを用いることには様々なメリットがあります。

 

集客ができる

ただの筋肉のもみほぐしというよりも、筋膜リリースといった方が何だか特別感があり、高い効果が得られる印象が生まれるかもしれません。

言葉が与える印象というのは想像以上であり、どんな言葉を使うかはとても大切なことです。

筋膜リリースという言葉も少しずつ浸透し、筋膜リリースをやって欲しいというお客さんも少なからず見受けられます。

筋膜リリースを目玉商品にしている整体院なども目にすることがあります。

筋膜リリースが集客できるワードになりつつあるのかもしれません。

 

人体の不思議に対する説明ができる

筋膜という概念はこれまで科学で説明できなかった事象のひとつの考え方となります。

筋膜でつながっているから離れたところにも効果があるんですよ、と言えば納得してもらいやすくなります。

人に納得してもらうには科学的根拠があるかないかよりも、自分の頭で理解できる簡単な内容であるかどうかが重要です。

その点で筋膜という言葉は、シンプルでわかりやすい説明ができるコンセプトであるという強みがあります。

 

筋膜リリースのデメリット

一定の人気がある筋膜リリースですが、そこにはデメリットもあります。

 

検証が難しい

何を持って筋膜に効いているのか?というのは検証が難しいものがあります。

触診した時に〇〇の感触は筋膜由来のものだなんて言われることもありますが、触っただけでそれが筋膜であることを確認できる強い裏付けはありません。

多くの施術は筋膜だけでなく筋肉など他にも効果を及ぼすことが多く、筋膜との違いを明確に区別することは難しいものがあります。

私もお客さんから「この施術は筋膜に効いていますか?」と質問されることがあります。

一般的にどんな施術でも身体をほぐしている限り、筋膜の動きがよくなる可能性はあると思います。

しかし、筋膜の変化を確認する方法がないので実際のどのくらい筋膜に効果があるのかはわかりませんし、本当に検証したかったらエコー検査やMRIなどで細かく調べる必要がありますと。

 

実際に筋膜の変化を検証するなんてことは現実的ではないので、筋膜がどうなっているのかなんてわかりません。

そして実態を検証されることがなければ、あなたの腰痛の原因は筋膜ですよ〜と好き放題言えてしまうという面もあります。

 

まとめ

筋膜リリースの効果には一定の科学的根拠があるものの、その定義や効果については曖昧な部分も多く、

現状では売り上げを伸ばすための便利なキャッチコピーという側面があるのではないでしょうか。

 

<参考文献>

  1. Ajimsha MS, Al-Mudahka NR, Al-Madzhar JA. Effectiveness of myofascial release: systematic review of randomized controlled trials. J Bodyw Mov Ther. 2015 Jan;19(1):102-12. doi: 10.1016/j.jbmt.2014.06.001. Epub 2014 Jun 13. PMID: 25603749.
  2. Ajimsha MS, Chithra S, Thulasyammal RP. Effectiveness of myofascial release in the management of lateral epicondylitis in computer professionals. Arch Phys Med Rehabil. 2012 Apr;93(4):604-9. doi: 10.1016/j.apmr.2011.10.012. Epub 2012 Jan 10. PMID: 22236639.
  3. Cheatham SW, Kolber MJ, Cain M, Lee M. THE EFFECTS OF SELF-MYOFASCIAL RELEASE USING A FOAM ROLL OR ROLLER MASSAGER ON JOINT RANGE OF MOTION, MUSCLE RECOVERY, AND PERFORMANCE: A SYSTEMATIC REVIEW. Int J Sports Phys Ther. 2015 Nov;10(6):827-38. PMID: 26618062; PMCID: PMC4637917.
  4. Kalichman L, Ben David C. Effect of self-myofascial release on myofascial pain, muscle flexibility, and strength: A narrative review. J Bodyw Mov Ther. 2017 Apr;21(2):446-451. doi: 10.1016/j.jbmt.2016.11.006. Epub 2016 Nov 14. PMID: 28532889.
  5. Wilke J, Schleip R, Yucesoy CA, Banzer W. Not merely a protective packing organ? A review of fascia and its force transmission capacity. J Appl Physiol (1985). 2018 Jan 1;124(1):234-244. doi: 10.1152/japplphysiol.00565.2017. Epub 2017 Nov 9. PMID: 29122963.
  6. Krause F, Wilke J, Vogt L, Banzer W. Intermuscular force transmission along myofascial chains: a systematic review. J Anat. 2016 Jun;228(6):910-8. doi: 10.1111/joa.12464. Epub 2016 Mar 22. PMID: 27001027; PMCID: PMC5341578.
  7. Schleip R. Fascial plasticity – a new neurobiological explanation: Part 1. Journal of Bodywork and Movement Therapies. 2003;7(1):11-19.
  8. Threlkeld AJ. The effects of manual therapy on connective tissue. Phys Ther. 1992;72(12):893-902.
  9. Behm DG, Wilke J. Do Self-Myofascial Release Devices Release Myofascia? Rolling Mechanisms: A Narrative Review. Sports Med. 2019 Aug;49(8):1173-1181. doi: 10.1007/s40279-019-01149-y. PMID: 31256353.
  10. Krause F, Wilke J, Niederer D, Vogt L, Banzer W. Acute effects of foam rolling on passive stiffness, stretch sensation and fascial sliding: A randomized controlled trial. Hum Mov Sci. 2019;67:102514.
  11. Langevin HM, Fox JR, Koptiuch C, et al. Reduced thoracolumbar fascia shear strain in human chronic low back pain. BMC Musculoskelet Disord. 2011;12:203. doi:10.1186/1471-2474-12-203
  12. Wilke J, Schleip R, Klingler W, Stecco C. The Lumbodorsal Fascia as a Potential Source of Low Back Pain: A Narrative Review. Biomed Res Int. 2017;2017:5349620. doi:10.1155/2017/5349620
  13. Tesarz J, Hoheisel U, Wiedenhöfer B, Mense S. Sensory innervation of the thoracolumbar fascia in rats and humans. Neuroscience. 2011;194:302-308. doi:10.1016/j.neuroscience.2011.07.066
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  15. Schilder A, Magerl W, Klein T, Treede R-D. Assessment of pain quality reveals distinct differences between nociceptive innervation of low back fascia and muscle in humans. Pain Rep. 2018;3(3):e662. doi:10.1097/PR9.0000000000000662
  16. Schilder A, Hoheisel U, Magerl W, Benrath J, Klein T, Treede R-D. Sensory findings after stimulation of the thoracolumbar fascia with hypertonic saline suggest its contribution to low back pain. Pain. 2014;155(2):222-231. doi:10.1016/j.pain.2013.09.025
  17. Bednar DA, Orr FW, Simon GT. Observations on the pathomorphology of the thoracolumbar fascia in chronic mechanical back pain. A microscopic study. Spine (Phila Pa 1976). 1995;20(10):1161-1164. doi:10.1097/00007632-199505150-00010
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  19. Ranger TA, Teichtahl AJ, Cicuttini FM, et al. Shorter Lumbar Paraspinal Fascia Is Associated With High Intensity Low Back Pain and Disability. Spine (Phila Pa 1976). 2016;41(8):E489-493. doi:10.1097/BRS.0000000000001276
  20. Benjamin M. The fascia of the limbs and back--a review. J Anat. 2009 Jan;214(1):1-18. doi: 10.1111/j.1469-7580.2008.01011.x. PMID: 19166469; PMCID: PMC2667913.

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