怪我をしている人の中には痛みを過度に感じてしまったり、反対に痛みをあまり感じないということがあります。
痛みの感じ方には個人差がありますが、痛みの感じ方が極端に変化している場合には注意が必要かもしれません。
ポイント
- 痛みの程度は必ずしも軟骨のすり減りと比例するわけでないようです。
- 変形性膝関節症にともない痛みの感じ方に変化が生じることも珍しくないようです。
- 膝の状態次第では中枢神経の働きにも変化が生じているかもしれません。
変形性膝関節症と痛みの感じ方
変形性膝関節症に伴う痛みの感じ方は神経の働きによっても左右される可能性があります。
- 痛みの程度は必ずしも軟骨へのダメージの程度に比例しているわけではないようです1。
- 変形性膝関節症を抱えている人の中には神経の異常などによる痛みを訴える人も珍しくないようです2。
- 変形性膝関節症の約4割が痛みを過度に感じやすいという研究報告もあります3。
- 手術前に痛みをあまり感じない人、あるいは強すぎる痛みを感じている人は人工膝関節の手術後の痛みがうまくコントロールできていないという意見もあるようです4。
このように痛みの感じ方と神経の働きは密接に関わっています。
痛みの感じ方の変化〜中枢性感作
痛みに敏感になっている状態あるいは、痛みをあまり感じない時には脳や脊髄などの中枢神経の働きが関与していることがあり、
これら中枢神経の働きに異常が生じていることを中枢性感作などと言います5。
このような痛みの感じ方には神経の働きが関わっていることもあり、理想的にはfMRIなどで脳や神経の働きを計測するなどして解析したいところですが、
現実的にはいくつかの質問に答える形でも中枢性感作に該当するかどうかを一定の精度で判断する方法もあります3。
他にも熱や物理的刺激など複数の刺激を与えて、その反応をみるというのも研究などで使われている方法です6。
他の人と比べて反応が大きく違う場合には痛みの感じ方に異常があると考えられるようです3。
生理学的要因など
痛みの感じ方に変化をもたらす要因は様々なものが考えられます。
神経伝達
神経の働きによって痛みを感じやすくなっていることも考えられます。
- 変形性膝関節症で中枢性感作を抱えている人達に特定の刺激を加えたところ、脳幹の働きが増加している傾向にあり、これが痛みと関係していたことが報告されています7。
- 変形性膝関節症とともに神経の働きにより痛みを感じやすくなっている人達の膝に刺激を加えたところ、痛覚に関係している脳の部位の働きが少し高い傾向にあったことが報告されています8。
このように痛みを感じやすいときには脳神経の働きが変化していることもあるようです。
生理学的要素
膝の腫れや炎症などに伴う化学物質など、生理学的要素も関係しているかもしれません。
- 変形性膝関節症を抱えている人の筋肉に生理食塩水を注入したところ、痛みを敏感に感じるようになったことが報告されています9。
- この他にもある化学物質をマウスに注入すると軟骨へのダメージとともに神経による痛みが引き起こされることが報告されています10・11。
まだまだ詳しいメカニズムが解明されていませんが、膝の状態次第では中枢神経にも影響が及び、実際に膝のダメージが少なくとも痛みを過剰に感じてしまうこともあるようです。
痛みへの対策
痛みの脳科学に関する文献では、認知行動療法と呼ばれるものが紹介されることがよくあります。詳しくは次の記事をご覧ください。
-
痛みの脳科学〜慢性的な腰痛の痛みを軽減させるには?
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まとめ
変形性膝関節症にともない痛みの感じ方に変化が生じることもあるため、うまく痛みをコントロールすることが大切になってくるかと思います。
<参考文献>
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