これまで怪我のメカニズムとしては、腸脛靭帯が膝の外側の骨などに擦れて摩擦が起きることで炎症を起こし、やがて痛みへと変わっていくと考えられていました。特にランナーの人達は膝の曲げ伸ばしを繰り返すため、何度も摩擦が起きて怪我につながっていると考えられていました。しかし、最近では新たな発見もされていて考え方が徐々に変わってきています。
参照https://www.braceability.com/blogs/info/it-band-syndrome
ポイント
- 腸脛靭帯炎は周辺組織が圧迫されることで引き起こされているのではないか?という考え方もあるようです
- 腸脛靭帯炎を発症したランナーは走る時に急激に腸脛靭帯が引っ張られている可能性があるようです
- 骨盤が下がったり膝が内側に入ったりすることにより腸脛靭帯への負荷を高める可能性があるようです
Contents
腸脛靭帯炎は本当に擦れて起きているのか?
ランニングなどで腸脛靭帯は擦れていないのではないか?という考え方も登場してきています。
健康的な人や腸脛靭帯炎を持っている人の膝をMRIで撮影したり、解剖してみたところ、腸脛靭帯は強固に固定されており、動いて擦れることが難しいということを発見しています1・2。
(Fairclough et al 2006より引用)
膝の曲げ伸ばしによって腸脛靭帯が引っ張られる強さが部分的に変わることから、擦れるという”幻想”に繋がっているのではないか?と考察しています。これらの論文では腸脛靭帯炎は主に周辺組織が圧迫されることで引き起こされているのではないか?という可能性を提示しています。
他にも腸脛靭帯は膝の安定性に貢献している、などという考え方がいくつか提唱されています3。近い将来には腸脛靭帯炎に対する考え方がもっと変わっていくのかもしれませんね。
股関節や膝の位置で腸脛靭帯への負荷が変わる?
股関節や膝の動きが腸脛靭帯への負荷と関係があるようです。
(Hamill et al 2008より引用)
この研究ではランニング動作の解析時には健康なランナーを被験者とし、その後2年以内に腸脛靭帯炎を発症したかどうかでグループ分けをしています。この結果、腸脛靭帯炎を発症したグループの方がランニング時に大きな負荷がかかっている傾向があり、より急激に腸脛靭帯が引っ張られている可能性が高いことがわかっています4。
このように腸脛靭帯への負荷が高い走り方をしているために怪我につながっているという可能性が考えられるわけです。
ランニング時のストライドの長さで腸脛靭帯への負荷が変わる?
また、ランニング時のストライドの幅でも腸脛靭帯の負荷が変わってくるようです。
(Meardon et al 2012より引用)
ある研究では同一の被験者に通常のストライドと違う長さのストライドの走る動作解析をしたところ、ランニング時の歩幅を短くすると、腸脛靭帯の負荷が増えるようです5。また、それに伴い股関節の角度や膝が内側に回旋するといった変化も表れるようです。
これはストライドの幅による影響というよりも、股関節や膝関節の角度による影響が大きい可能性があるかもしれません。というのも腸脛靭帯への負荷はどのくらい組織が引き伸ばされているのか?という指標で測られており、それは股関節や膝関節の位置によって左右されるからです。
ランニング時の骨盤の動きが腸脛靭帯へ影響を及ぼす?
ランニング時の骨盤や膝の働き次第では腸脛靭帯への負荷が増える可能性があります。
(Tateuchi et al 2016より引用)
骨盤などの姿勢の変化がどのように腸脛靭帯に影響を及ぼすのかを調べた研究があり、被験者に色々な片足での立位姿勢をとらせています。そしてエコーで腸脛靭帯の状態を調べたところ、骨盤が下がったり膝が内側に入ったりすることにより腸脛靭帯への負荷を高める可能性があるという結果になっています6。
股関節や膝関節に不安定さがあるとこのような動きを誘発する可能性が考えられ、腸脛靭帯への負荷を高めてしまうことが考えられます。そのため周辺の筋肉を鍛えることや、片足の不安定な状態でのトレーニングでも安定するような身体のバランスを獲得することが役に立つのではないかと思います。
骨盤や膝をうまくコントロールすることが腸脛靭帯への負荷を減らすのに役に立つのではないか?と考えられるわけですね。
まとめ
腸脛靭帯の硬さが膝を安定させるのに役に立つのですが、膝や股関節が傾いたようなランニングフォームにおいては腸脛靭帯への負荷が高まってしまう可能性があります。こういったことから骨盤や膝を安定させることが大事で、お尻周りの筋肉を鍛えることが腸脛靭帯炎の予防に繋がるのではないでしょうか。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました。
<参考文献>
-
Fairclough J, Hayashi K, Toumi H, et al. The functional anatomy of the iliotibial band during flexion and extension of the knee: implications for understanding iliotibial band syndrome. J Anat. 2006;208(3):309-316.
-
Fairclough J, Hayashi K, Toumi H, et al. Is iliotibial band syndrome really a friction syndrome? Journal of Science and Medicine in Sport. 2007;10(2):74-76.
-
Geisler PR, Lazenby T. Iliotibial Band Impingement Syndrome: An Evidence-Informed Clinical Paradigm Change. International Journal of Athletic Therapy & Training. 2017;22(3):1.
-
Hamill J, Miller R, Noehren B, Davis I. A prospective study of iliotibial band strain in runners. Clin Biomech (Bristol, Avon). 2008;23(8):1018-1025.
-
Meardon SA, Campbell S, Derrick TR. Step width alters iliotibial band strain during running. Sports Biomech. 2012;11(4):464-472.
-
Tateuchi H, Shiratori S, Ichihashi N. The effect of three-dimensional postural change on shear elastic modulus of the iliotibial band. J Electromyogr Kinesiol. 2016;28:137-142.