研究手法

脳の拡散テンソル画像と怪我のメカニズムについて

怪我に関する論文を読んでいると脳神経に関する研究をちらほら目にすることがあります。その中には普段なじみのない難解な用語がでてきたります。

今回は拡散テンソル画像(Diffusion Tensor Imaging)や拡散異方性(Fractional Anisotrophy)について説明していきたいと思います。

この記事は自分が研究を進める上でのメモのような内容でもあります。

 

拡散異方性(Fractional Anisotropy)とは?

拡散テンソル画像とはMRIの撮影技法のひとつであり、プロトン原子の動きから神経の繊維束の走行を推測することができます。

分子の拡散

細胞にはプロトンが含まれており自由に動いているのですが、脳においては神経線維の方向にプロトンが動きやすくなっているという仕組みを利用したものです。

 

怪我をしている人の脳の拡散テンソル画像(Diffusion Tensor Imaging)

一般的に加齢や怪我をした人の脳は拡散異方性が小さい傾向にあります。

以下に紹介するもの以外にも脳卒中やアルツハイマー、発達障害など他にも様々なものと関連していたりします。

このことから怪我などが脳の神経繊維束の走行と関係している可能性があるのではないか?と考えられるわけです。

 

前十字靭帯断裂

前十字靭帯を断裂した人においては拡散異方性が小さいことが報告されており、これが脳の反応の鈍さに関係しているのではないか?という説があるようです。

 

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慢性的な捻挫

慢性的に捻挫を繰り返す人は、運動機能の統合を司る考えられている小脳の一部に拡散異方性が小さいことが確認されたそうです

(Terada et al 2019より引用)

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バランス感覚と拡散異方性

超絶なバランス感覚を身につけている人は脳の拡散異方性が小さくなる可能性があります。

体操選手

  • ダンサーは皮質脊髄路(Corticospinal tract)の拡散異方性が小さいことが報告されています
  • バレエダンサーの運動前野(Premotor cortex)や運動皮質(Motor cortex)において拡散異方性が小さいことが報告されています4・5
  • 世界トップクラスの体操選手においては脳の複数の箇所において拡散異方性が小さいことが報告されています
  • 数週間のバランストレーニングにより小脳など脳の複数箇所で拡散異方性が小さくなったことが報告されています

このようにバランス感覚を要求されるスポーツなどに取り組むことで脳の拡散異方性が小さくなることがあります。

怪我をしている人の脳の拡散異方性が小さくなる傾向がある一方で、鍛錬を積んだ健康的なスポーツ選手の脳の拡散異方性が小さくなることもあるため、数値だけで簡単に判断できない面があります。

 

限界について

拡散テンソル画像による怪我のメカニズムの研究はまだまだ発展途上であり、それが何を意味をするのか?解明されていないことも多くあります。

 

拡散の異方性は神経線維の量や密度によって影響を受けることがあります。

また、拡散テンソル画像にはFunctional anisotrophyだけでなく、Mean diffusivity、Radial diffusivityなどの様々なパラメーターが存在するため、ひとつの数値だけでの判断しきれない部分もあるかと思います。

いずれにしても今後の研究が発展して、脳機能の解明が進むことを願うばかりです。

 

まとめ

一般的に加齢や怪我などの障害にともない脳の神経繊維束に影響が出ていることがありますが、まだまだその詳細なメカニズムは解明されていない部分も多くあります。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

<参考文献>

  1. Lepley AS, Ly MT, Grooms DR, Kinsella-Shaw JM, Lepley LK. Corticospinal tract structure and excitability in patients with anterior cruciate ligament reconstruction: A DTI and TMS study. NeuroImage: Clinical. 2020;25:102157.
  2. Terada M, Johnson N, Kosik K, Gribble P. Quantifying Brain White Matter Microstructure of People with Lateral Ankle Sprain. Medicine & Science in Sports & Exercise. 2019;51(4):640–646.
  3. Burzynska AZ, Finc K, Taylor BK, Knecht AM, Kramer AF. The Dancing Brain: Structural and Functional Signatures of Expert Dance Training. Front Hum Neurosci. 2017;11. doi:10.3389/fnhum.2017.00566
  4. Hänggi J, Koeneke S, Bezzola L, Jäncke L. Structural neuroplasticity in the sensorimotor network of professional female ballet dancers. Hum Brain Mapp. 2010;31(8):1196-1206. doi:10.1002/hbm.20928
  5. Meier J, Topka MS, Hänggi J. Differences in Cortical Representation and Structural Connectivity of Hands and Feet between Professional Handball Players and Ballet Dancers. Neural Plasticity. 2016;2016:e6817397. doi:10.1155/2016/6817397
  6. Huang R, Lu M, Song Z, Wang J. Long-term intensive training induced brain structural changes in world class gymnasts. Brain Struct Funct. 2015;220(2):625-644. doi:10.1007/s00429-013-0677-5
  7. Taubert M, Draganski B, Anwander A, et al. Dynamic properties of human brain structure: learning-related changes in cortical areas and associated fiber connections. J Neurosci. 2010;30(35):11670-11677. doi:10.1523/JNEUROSCI.2567-10.2010
  8. Drijkoningen D, Caeyenberghs K, Leunissen I, et al. Training-induced improvements in postural control are accompanied by alterations in cerebellar white matter in brain injured patients. NeuroImage: Clinical. 2015;7:240-251. doi:10.1016/j.nicl.2014.12.006

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