骨盤股関節

ハムストリングスの肉離れの原因について

ハムストリングスの肉離れをしている男性

ハムストリングスの肉離れは短期間でそう簡単には治らずに、意外と長い期間かかってしまうことも珍しくありません。

ただ闇雲に柔軟性を高めていくだけでは思うような効果が得られない可能性があり、そのメカニズムを理解した上で色々な対策をすることが役に立つ可能性があります。

 

ポイント

  • ハムストリングスの柔軟性はそこまで肉離れの発生率に影響を与えないようです
  • 肉離れをした人はハムストリングスが引き伸ばされた状態での筋力が弱い傾向にあるようです
  • ハムストリングスの正常な可動域を確保し、その上でハムストリングスが引き伸ばされる状態でのトレーニングが役立ちます

 

着地の瞬間がハムストリングスへの負荷が高い?

急激にハムストリングスを引き伸ばされることで肉離れが起きると考えられています。

ランニング着地

  • ランニング動作においてハムストリングが引き伸ばされるのは着地の前の瞬間で、さらに着地した瞬間には身体を支えるために筋肉への大きな負荷がかかります
  • ハムストリングスの可動域が低いほどより高い負荷で引き伸ばされるため、ハムストリングスの肉離れにつながると考えられています。

こういった理由からストレッチなどでハムストリングスの柔軟性を高め、急激に引き伸ばされる負荷を減らし、ハムストリングスの肉離れを予防できるのではないかと考えられています。

 

ハムストリングスの柔軟性を高めれば肉離れをしない?

ハムストリングスの柔軟性を高めても肉離れを予防する効果は限定的かもしれません。

ハムストリングスのストレッチ

  • プロのサッカー選手438人のハムストリングスの可動域を調べた研究ではハムストリングスの肉離れをした人とそうでない人の間に可動域の差はなかったようです
  • 他の論文においてもハムストリングスの柔軟性と肉離れの発生率に重要な関係はなかったとするものもあり、議論の余地があるそうです

ハムストリングスの柔軟性が大切であるものの、どうやら思っているほど肉離れの発生率に影響を及ぼすわけではないようです。

 

ハムストリングスの筋力不足

ハムストリングスへの負荷がかかりやすい場面での筋力発揮が肉離れ予防に重要になってきます。

  • ある研究でハムストリングスの肉離れをした人はハムストリングスが伸びている状態での筋力が落ちている傾向が報告されています
  • ハムストリングスの柔軟性の低い人は、ハムストリングスが伸びている状態での筋力が弱いことが示唆されています
  • 筋肉が力を発揮することで筋肉が引き伸ばされるストレスが軽減されることが報告されています

このようにハムストリングスが引き伸ばされて負荷がかかる着地時の筋力が大切になってきます。

まずはハムストリングスの正常な可動域を確保して、その上でハムストリングスが引き伸ばされた状態の筋力が鍛えていくことが大切になってくるかと思います7〜9

 

筋疲労によるハムストリングスの肉離れ

ハムストリングスの肉離れはどのような状況で起きやすいのか?それを理解することでハムストリングスの肉離れの予防につなげることができます。

 

肉離れの発生状況

肉離れは疲労が溜まっている時に起こりやすい傾向にあります。

サッカー怪我

  • ヨーロッパサッカーを複数シーズン分析した研究では肉離れは試合の後半のほうが多いことが明らかになっています12
  • 試合後半になるとハムストリングスの活動量が落ちやすく13、大腿四頭筋と比べてハムストリングスの筋力が落ちやすい傾向にあります14・15

このように激しい試合や大会などで筋肉が疲労していくと、ハムストリングスの肉離れへとつながる可能性があります。

 

疲労による肉離れのメカニズム

疲労した筋肉は衝撃吸収能力が低下していることが明らかになっており、これが肉離れにつながっていることが示唆されています

(Mair et al 1996より引用)

一般的に肉離れは筋肉が引き伸ばされることが原因と考えられていますが、筋肉が疲労した状態でも筋肉は同じ長さで肉離れが起こることが動物実験で明らかになっています16

 

筋持久力とハムストリングスの肉離れ

ハムストリングスの筋持久力が低い選手は肉離れを起こしやすい可能性があります。

疲労したアスリート

  • ハムストリングスの肉離れをした選手は持久力が低く、ダッシュやスプリントを繰り返す持久力が低い傾向にあります17・18
  • 持久力が低い選手がダッシュやスプリントの回数を増やすとハムストリングスを肉離れしやすいようです19
  • ハムストリングスの筋力が大腿四頭筋に対して弱いと肉離れをしやすいのですが、これも疲労を考慮した上で考えたほうがいいのではないか?という意見もあります20

このようにハムストリングスの筋持久力の弱さが肉離れにつながる可能性があるため、しっかりと持久力も鍛えておきたいところです。

 

ハムストリングスの肉離れが発生する状況

練習量が多くなってきたり、試合のシーズンなど、特定の状況でハムストリングスの肉離れのリスクが高まります。

 

走行距離が長いと肉離れが発生しやすい

練習や試合などで走行距離が長くなってくるとハムストリングスの肉離れにつながることがあります。

サッカーの練習

  • GPSによりフットボール選手の走行距離を1シーズン追跡したところ、走行距離が増えるとハムストリングスの肉離れが増えることが報告されています21
  • 別の類似の研究では2シーズンにわたり練習と試合を追跡したところ、走行距離とハムストリングスの肉離れに関係がみられなかったことが報告されています22

このように走行距離は決定的な要因ではないものの、走行距離が増えてきた時には怪我のリスクに注意が必要かもしれません。

 

スプリントの頻度とハムストリングスの肉離れ

ダッシュやスプリントの頻度や回数が増えてくるとハムストリングスの肉離れのリスクが高まるようです。

  • GPSによりフットボール選手を2シーズンにわたり練習と試合を追跡したところ、スプリントやダッシュの回数が増えるとハムストリングスの肉離れのリスクが高まることが報告されています22
  • 選手個人の2年間の平均的なダッシュ回数よりも増えると、数週間以内にハムストリングスの肉離れを引き起こしやすいようです22
  • 別の研究においてもスプリントやダッシュの量を急激に増やすと肉離れを起こしやすく、普段から多くのダッシュやスプリントをしている選手は肉離れを起こしにくいそうです23

このように普段慣れていないような量のダッシュやスプリントをするとハムストリングスの肉離れを起こしやすく、特に持久力が低い選手がダッシュやスプリントの量を急激に増やすことには注意が必要かもしれません。

 

スポーツのシーズンと肉離れ

スポーツではシーズンによってコンディションや試合数が変わったりすることがありますが、急激に運動量が増える時期にはハムストリングスの肉離れも起こりやすくなるかもしれません。

サッカーのウォームアップ

例えば、長い休養が明けてシーズンが始まった時にハムストリングスを肉離れしやすかったり24・25、あるいはシーズン中に試合数が増えてくると肉離れをしやすい可能性が考えられます26

ヨーロッパサッカーを14年間で13万試合以上分析した研究では、試合の間隔が5日以内になると筋肉系の故障のリスクが高まることが報告されています27

いずれにしても、慣れていない状態で急激にダッシュやスプリントの回数が増えてくることに注意が必要かもしれません。

 

 

ハムストリングス以外の筋肉からの影響

ハムストリングスの肉離れ防止のためのトレーニングには周辺の様々な筋肉を考慮することが大切です。

漠然とハムストリングスの筋肉を鍛えていくだけでは足りず、色々な要素を考えながら鍛えていくことでより高い効果が期待できます。

 

大腿四頭筋とのバランス

ハムストリングスと大腿四頭筋

参照https://www.performancehealth.com/articles/how-to-treat-quad-and-hamstring-strains

  • 太ももの前と後ろのバランスが大切で、太ももの前にある大腿四頭筋に比べてハムストリングスの筋力が落ちている場合や、ハムストリングスの筋力に左右差が生じている場合には肉離れのリスクがあるようです。
  • 膝関節の角度が急激に変わる場合の筋力も重要で、ハムストリングスとの発生率と関係しているそうです10。スプリント動作のように足を素早く動かす動作では膝関節の角度が急激に変わるためです。

 

お尻の筋肉とハムストリングスの肉離れ

お尻の筋肉を鍛えることでハムストリングスへの負荷を軽減できる可能性があります。

大臀筋とハムストリングス

  • サッカー選手60名を対象にランニング動作時を調べたところ、お尻の筋肉の活動量が多かった人はハムストリングスの肉離れが少ない傾向にあったそうです28
  • 約60名のスプリンターを対象とした研究では、お尻の筋肉量はハムストリングスの肉離れの発生に関係していなかったという報告もあります29

こういったことから万能とは言えないかもしれませんが、お尻の筋肉を鍛えることがある程度はハムストリングスの肉離れ予防に役に立つ可能性があるかと思います。

 

ハムストリングスの内側と外側の活動量

ハムストリングスには複数の筋肉に分かれており、特に内側と外側に分けて鍛えるという発想が役立つことがあります。

ハムストリングス

  • ハムストリングスの肉離れをした選手は、内側よりも外側のハムストリングスの活動量が低下している傾向が複数の研究で確認されています30〜32
  • 肉離れの発生箇所についても内側よりも外側のハムストリングスの肉離れが多いようです33
  • ハムストリングスの内側の筋肉が大事で、外側に負荷がかかるのは好ましくないという意見もあります34

こういったことからハムストリングスの内側と外側の筋肉のバランスが肉離れに関係している可能性があると考えられます。

 

まとめ

このようにハムストリングを鍛えるといっても色々な要素があります。

より多角的に、そして競技特性を考慮しながらハムストリングスを鍛えていくことが肉離れを防ぐことになるかと思います。

 

<参考文献>

  1. Wan X, Qu F, Garrett WE, Liu H, Yu B. The effect of hamstring flexibility on peak hamstring muscle strain in sprinting. Journal of Sport and Health Science. 2017;6(3):283-289.

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  34. Schuermans J, Van Tiggelen D, Danneels L, Witvrouw E. Susceptibility to Hamstring Injuries in Soccer: A Prospective Study Using Muscle Functional Magnetic Resonance Imaging. Am J Sports Med. 2016;44(5):1276-1285. doi:10.1177/0363546515626538

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