腰痛のメカニズム

慢性的な腰痛は筋膜リリースで解決できるのか?

原因不明の腰痛が起こることは珍しくなく、多くの人達が腰痛に悩まされています。

腰痛の原因には様々なものがありますが、最近では筋膜リリースなどに注目が集まっています。

ここで腰の筋膜が腰痛に関与しているか?という可能性について紹介していきたいと思います。

 

ポイント

  • 腰の筋膜には多くの痛覚神経が存在し、痛みを感じている可能性があります。
  • 腰の筋膜は痛みの感じ方が微妙に違う可能性があります。
  • 慢性的な腰痛を抱えている人は筋膜の厚みが増し、硬くなり、動きが悪くなっている可能性があります。

 

 

腰の筋膜の痛覚神経

近年では腰の筋膜にも痛みに関わる神経が存在していることが明らかになり、これが原因不明の腰痛と関係しているのではないか?と議論が行われています

 

神経の解剖

腰の筋膜にも痛みに関する感覚神経が確認されています

(Tesarz et al 2011より引用)

筋膜には筋肉の数倍もの密度の神経があるという研究結果もあり、筋膜が痛みに及ぼす影響は圧倒的に大きいという説があります。

(Wilke et al 2019より引用)

しかし、図のように筋膜の体積は小さく、神経の密度が高くとも数が限られていることから、筋膜が痛みの感じ方に圧倒的な影響を及ぼすという説には疑問が残ります。

 

腰の筋膜の痛みの種類

腰の筋膜は特定の種類の痛みを感じやすい可能性が考えられています。

腰痛

  • 筋肉と筋膜で痛みの感じ方が微妙に違う、筋肉はズッシリした深い痛みを感じやすいのに対して筋膜は刺すような鋭い痛みを感じやすいという研究結果があります
  • 筋膜は化学物質への痛みに反応しやすい一方で、圧力を与えられると強い痛みを感じやすいのは筋肉であるという研究結果もあります。これは高張食塩水を注入した時の反応で調べています。

このように筋肉と筋膜で痛みの感じ方は微妙に違ってくることがあるようです。

 

神経の興奮度

筋膜の痛覚神経の働きが異常になり、腰痛を感じやすいという可能性も考えられます。

脳への痛覚の神経伝達

  • 腰の筋膜を刺激することで痛覚に関する神経が興奮して痛みを感じやすい状態になっていたことが報告されています。この実験ではマウスの遺伝子情報での解析であるため、人間にどのくらい同じことが言えるのかは不明です。
  • 実際に慢性的な腰痛を抱えている人の腰の筋膜を採取して解析したところ、神経の構造に大きな異常は見当たらなかったという研究結果が報告されています

まだまだ研究数も少なく証明力が弱いですが、可能性のひとつとして考えるのは悪くないかと思います。

 

腰痛と筋膜の変化

慢性的な腰痛に筋膜の構造の変化も関与しているのではないか?ということも注目されつつあります。

 

筋膜の厚み

慢性的な腰痛は筋膜の厚みと関係している可能性があります。

(Langevin et al 2009より引用)

  • 慢性的な腰痛を抱えている人達は腰の筋膜の厚みが増している傾向にあることが報告されています
  • 腰の筋膜の厚みはBMIとの相関関係がみられたそうです7・8。体重が増えていることも筋膜が厚くなる要因となる可能性が考えられます。
  • 年配の人たちのほうが腰の筋膜の厚みがみられたという研究結果がありますが、一方で年齢との関係性がみられなかったという研究結果もあります

腰の筋膜の厚みは様々な要因によって影響を受ける可能性が考えられ、状況次第ではプラスにもマイナスにもなり得ます。

 

純粋に筋膜が強化されて体積が増しているのならば、身体にとってはプラスに働きます。

しかし、炎症による腫れで筋膜の体積が大きくなっている可能性もありますし、弾力性のある筋膜が失われ傷口に形成されるような結合組織で筋膜の体積が増えている場合には、身体にとってはマイナスとなる可能性があります。

 

筋膜の炎症

慢性的な腰痛を抱えている人の腰の筋膜は炎症を起こしている傾向にあることが報告されています

腰の筋膜の炎症が慢性的な腰痛に関係している可能性が考えられますが、他にも筋肉や靭帯なども炎症を起こしますので筋膜だけが特別というわけではないかと思います。

 

筋膜の硬さ

慢性的な腰痛を抱えている人は腰の筋膜が硬くなっていることがエコー検査にて報告されています

腰の筋膜

筋膜の硬さとは何か?についてはさらなる深い議論があり、これはまたの機会にご紹介したいと思います。

 

筋膜の長さ

腰の痛みを抱えている人は腰の筋膜が短くなっている傾向にあることがMRIによる研究で報告されています10

腰の筋膜が短くなることで腰を圧迫して血流減少につながる可能性や、腰の筋肉の体積が小さくなったために筋膜も短くなった、筋膜の硬さが筋膜の短さに関係しているなど様々な可能性が考えられていますが、その詳細なメカニズムはわかっていません。

 

筋膜の動き

慢性的な腰痛を抱えている人は筋膜の動きが悪くなっている可能性があります。

(Langevin et al 2011より引用)

  • 慢性的な腰痛を抱えている人は筋膜が動きにくく、スライドしにくいことが報告されています11
  • 筋膜が動きにくいことは筋膜の厚み、筋膜の硬さ、腰の可動域の低下と相関関係がみられたそうです11
  • 一方で筋膜の動きと痛みの程度に関連はみられなかったという研究結果もあります11

 

考察

ここからは一個人の考えとして腰の筋膜と腰痛の関係について書かせていただきたいと思います。

個人の意見というものは客観的な証明力が低いものであり、そういう前提で捉えていただければと思います。

 

腰の筋膜の神経について

まずは腰の筋膜の神経伝達についてですが、腰の筋膜も痛みの原因になりうる可能性は十分にあるかと思います。

というのも腰の筋膜にも痛みを感じる神経細胞を有しているわけですし、何かしらの刺激で痛みへとつながることは考えられるかと思います。

しかしながら、痛みを感じる神経は筋膜だけでなく筋肉などの他の組織も有しているわけで、筋膜が痛みの感じ方を圧倒的に支配しているとは限らないと思います。

 

仮に腰の筋膜の神経伝達異常が起こっていたとして、それは手軽に検査できるものではないかと思います。現場でできることは問診などによる推測であり、脳神経のfMRI検査などで神経伝達の異常がないかをきっちり評価するのは簡単ではないと思います。

科学的な検証を行うにしても、神経伝達の異常が筋膜から引き起こされているのか?を直接検証するのは難しい印象を受けています。

MRI

今まで見逃されてきた腰痛の原因として筋膜という可能性があるという話はとても興味深いのですが、

原因不明の腰の痛みが筋膜によって引き起こされていると言えるほどの強い根拠は現時点では確認できていないと私は思います。

まだまだ解明されていないことも多く可能性はゼロではないと思うので、今後の研究結果がどうなるか楽しみです。

 

腰の筋膜の構造的な変化について

腰痛が発生すれば、炎症が起こるし、周辺の組織が硬くなる、などの反応は自然なことだと思います。

筋膜に関する論文を読むと小難しい用語でいかにも凄いことが書かれているように見えるのですが、起こっている現象は意外と基本的なことも多いのでは?と思う部分があります。

 

腰の筋膜も関節の安定性に貢献しているので、筋膜の構造的な変化というのは身体を守るために必要な機能であると思います。

ただ、腰を支えているのは筋膜だけではなく、筋肉や椎間板など様々な組織も腰の機能に欠かせないものであり、

筋膜だけが特別なわけではなく、あくまで筋膜もひとつの要素に過ぎないのではないかと個人的には思います。

もちろん筋膜に特別な機能が隠されている可能性がゼロではありませんので、今後の研究成果が楽しみなところです。

 

まとめ

慢性的な腰痛に筋膜の働きが関わっており、可能性のひとつとして興味深いものがあります。

現時点ではまだまだ科学的根拠が弱い気がしていますが、今後どうなるか楽しみです。

 

<参考文献>

  1. Wilke J, Schleip R, Klingler W, Stecco C. The Lumbodorsal Fascia as a Potential Source of Low Back Pain: A Narrative Review. Biomed Res Int. 2017;2017:5349620. doi:10.1155/2017/5349620
  2. Tesarz J, Hoheisel U, Wiedenhöfer B, Mense S. Sensory innervation of the thoracolumbar fascia in rats and humans. Neuroscience. 2011;194:302-308. doi:10.1016/j.neuroscience.2011.07.066
  3. Barry CM, Kestell G, Gillan M, Haberberger RV, Gibbins IL. Sensory nerve fibers containing calcitonin gene-related peptide in gastrocnemius, latissimus dorsi and erector spinae muscles and thoracolumbar fascia in mice. Neuroscience. 2015;291:106-117. doi:10.1016/j.neuroscience.2015.01.062
  4. Schilder A, Magerl W, Klein T, Treede R-D. Assessment of pain quality reveals distinct differences between nociceptive innervation of low back fascia and muscle in humans. Pain Rep. 2018;3(3):e662. doi:10.1097/PR9.0000000000000662
  5. Schilder A, Hoheisel U, Magerl W, Benrath J, Klein T, Treede R-D. Sensory findings after stimulation of the thoracolumbar fascia with hypertonic saline suggest its contribution to low back pain. Pain. 2014;155(2):222-231. doi:10.1016/j.pain.2013.09.025
  6. Taguchi T, Yasui M, Kubo A, et al. Nociception originating from the crural fascia in rats. Pain. 2013;154(7):1103-1114. doi:10.1016/j.pain.2013.03.017
  7. Langevin HM, Stevens-Tuttle D, Fox JR, et al. Ultrasound evidence of altered lumbar connective tissue structure in human subjects with chronic low back pain. BMC Musculoskelet Disord. 2009;10:151. doi:10.1186/1471-2474-10-151
  8. Wilke J, Macchi V, De Caro R, Stecco C. Fascia thickness, aging and flexibility: is there an association? J Anat. 2019;234(1):43-49. doi:10.1111/joa.12902
  9. Bednar DA, Orr FW, Simon GT. Observations on the pathomorphology of the thoracolumbar fascia in chronic mechanical back pain. A microscopic study. Spine (Phila Pa 1976). 1995;20(10):1161-1164. doi:10.1097/00007632-199505150-00010
  10. Ranger TA, Teichtahl AJ, Cicuttini FM, et al. Shorter Lumbar Paraspinal Fascia Is Associated With High Intensity Low Back Pain and Disability. Spine (Phila Pa 1976). 2016;41(8):E489-493. doi:10.1097/BRS.0000000000001276
  11. Langevin HM, Fox JR, Koptiuch C, et al. Reduced thoracolumbar fascia shear strain in human chronic low back pain. BMC Musculoskelet Disord. 2011;12:203. doi:10.1186/1471-2474-12-203
  12. Willard FH, Vleeming A, Schuenke MD, Danneels L, Schleip R. The thoracolumbar fascia: anatomy, function and clinical considerations. J Anat. 2012;221(6):507-536. doi:10.1111/j.1469-7580.2012.01511.x

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