脳神経

怪我による脳支配領域の変化

脳神経の働きが怪我にどのような影響を及ぼしているのかわからないことが多くあります。技術の進歩によって脳機能の解明が進んでいますが、まだまだ科学的な裏付けのある再現性の高い実践的なアプローチは少ないという意見もあるくらいです。

怪我による脳神経の変化についても賛否両論あり、最近の研究成果から「こんな可能性があるんじゃないか?」というお話としてご紹介したいと思います。

 

ポイント

  • 筋肉を動かす脳支配領域があり、これは筋肉の連動性などと関係しているようです。
  • 怪我をすることで筋肉の脳支配領域が小さくなっていく傾向があるようです。
  • 新しいスキルを学ぶことで脳支配領域が広がっていく傾向にあるようです。

 

概要

脳支配領域というものがあります1・2

例えば脳の特定の場所が手足や顔の動きと結びついていると考えられており、脳の中のホムンクルスなどと呼ばれることがあります。

参照https://quizlet.com/513437572/cortical-homunculus-diagram/

これは脳の特定の部位に刺激を与えて筋肉が反応するかどうか?といった方法で検証することができるようです。

 

怪我と筋肉の脳支配領域

怪我と脳支配領域には何らかの関係があるかもしれません。

 

怪我をしている人達の例

怪我をすることで脳支配領域が小さくなっていく可能性があります。

(Schabrun et al 2015より引用)

  • 外側上顆炎 (lateral epicondylitis)の人達を対象に調べたところ、痛みが大きいほど前腕の筋肉の脳支配領域が小さくより近かった傾向にあったそうです
  • 捻挫を繰り返している人は腓骨筋の脳支配領域が小さい傾向にあったそうです
  • 腰痛を抱えている人達は脊柱起立筋と多裂筋の脳支配領域が近かった傾向にあったそうです

まだまだ研究数は少ないですが、怪我をした時の筋肉の機能不全と何らかの関わりがあるかもしれません。

 

脳支配領域が変化するメカニズム

人の身体のあらゆる機能は何かしら本能的に必要な役割があると考えられます。

筋肉のシナジー

  • 怪我などで関節や筋肉を動かさない(Immobilization)ことで脳支配領域が小さくなっていくことが報告されています
  • 筋肉を共同収縮(co-contraction)させることで、その筋肉の同士の脳支配領域が近づく可能性があることが報告されています
  • 健康な人でも複数の筋肉の脳支配領域が重なることは自然なことのようです8・9
  • 複数の筋肉のシナジーのほうが単独の筋肉の活動よりも脳波との関連性が強いことが研究で明らかにされています10。このことから脳は複数の筋肉にまとめて信号を送っている可能性が示唆されています。

(Yokoyama et al 2019より引用)

あくまで仮説にすぎませんが、こういった変化は脳の働きをいかに効率化することと関係しているのかもしれません。

 

連動性の破綻

実際の怪我においては様々な要因が影響するため、状況に応じた脳支配領域の柔軟さが大事かもしれません。

  • 腰痛を持っている人達は腹横筋の脳支配領域の位置が変化しており、これが腕をあげる動作時の腹横筋の収縮の遅れとの相関関係がみられたことが報告されています11

(Tsao et al 2008より引用)

怪我を防ぐためには関節を固めることだけでなく、筋肉を連動して働かせたりと状況に応じた最適な働きも大切になってきます。

 

スキルトレーニングによる脳支配領域の拡大

スポーツや音楽などで新たなスキルを学ぶことが、脳の変化を生み出しているのかもしれません。

 

アスリートの事例

アスリートのように競技のスキルを磨き続けいている人達は脳支配領域にも変化が生じるようです。

  • バレーボール選手の肩の筋肉の脳支配領域はランナーよりも広かったことが報告されています12
  • バレーボール選手の利き腕の脳支配領域は筋肉同士の重なりも多かったことが報告されています12

(Tyc et al 2005より引用)

バレーボールは腕や肩を連動させて働かせるため脳支配領域が広くなり、少ない脳信号で複数の筋肉を連動させることができるのではないかと考えられます。

 

スキルトレーニングの効果

新たなスキルを学び続けることで脳支配領域が広がっていきます。

  • 新たにピアノを学んだ人は指の筋肉の脳支配領域が広くなっていくことが報告されています13
  • 単調で同じ動作の繰り返しでは脳に変化がみられなかったことが報告されています13
  • 新たなスキルを学び続けることで脳支配領域が広くなっていきますが、すでに身につけているスキルを練習しても脳支配領域は広がらないどころか反対に小さくなって可能性があります14

このように既に習得していることではなく、新しいスキルを学ぶことが脳への刺激になるのかもしれません。

 

驚異のパラリンピックアスリート

パラリンピックの選手達は通常では考えられないような脳の働きをしていることがあるそうです。

義足のアスリート

  • 義足の走り幅跳びの選手でパラリンピック金メダリストの脳を調べたところ、通常では起こり得ない同側の感覚運動皮質の活動が増えていたことが報告されています15
  • 両腕を失ったパラリンピックアーチェリー選手の脚の筋肉の脳支配領域がとんでもなく広がっていたことが報告さえています16
  • 脚が麻痺している水泳選手でパラリンピックの金メダリストの脳を調べたところ、指の脳支配領域が大きく変化していたことが報告されています17

パラリンピックという環境で困難を乗り越えてスキルトレーニングを続けていることが、脳の驚異的な変化を生み出しているのかもしれません18

 

まとめ

まだまだ解明されていないことが多くありますが、筋肉の脳支配領域は脳の働きを効率化させるためのメカニズムであり脳支配領域を変化させることで環境に適応しやすくなるのかもしれません。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

<参考文献>

  1. Rossini PM, Pauri F. Neuromagnetic integrated methods tracking human brain mechanisms of sensorimotor areas “plastic” reorganisation. Brain Res Brain Res Rev. 2000;33(2-3):131-154. doi:10.1016/s0169-328x(00)00090-5
  2. Dayan E, Cohen LG. Neuroplasticity Subserving Motor Skill Learning. Neuron. 2011;72(3):443-454. doi:10.1016/j.neuron.2011.10.008
  3. Schabrun SM, Hodges PW, Vicenzino B, Jones E, Chipchase LS. Novel adaptations in motor cortical maps: the relation to persistent elbow pain. Med Sci Sports Exerc. 2015;47(4):681-690. doi:10.1249/MSS.0000000000000469
  4. Kosik KB, Terada M, Drinkard CP, McCann RS, Gribble PA. Potential Corticomotor Plasticity in Those with and without Chronic Ankle Instability. Med Sci Sports Exerc. 2017;49(1):141-149. doi:10.1249/MSS.0000000000001066
  5. Tsao H, Danneels LA, Hodges PW. ISSLS prize winner: Smudging the motor brain in young adults with recurrent low back pain. Spine (Phila Pa 1976). 2011;36(21):1721-1727. doi:10.1097/BRS.0b013e31821c4267
  6. Liepert J, Tegenthoff M, Malin JP. Changes of cortical motor area size during immobilization. Electroencephalogr Clin Neurophysiol. 1995;97(6):382-386. doi:10.1016/0924-980x(95)00194-p
  7. Schabrun SM, Ridding MC. The influence of correlated afferent input on motor cortical representations in humans. Exp Brain Res. 2007;183(1):41-49. doi:10.1007/s00221-007-1019-8
  8. Plow EB, Arora P, Pline MA, Binenstock MT, Carey JR. Within-limb somatotopy in primary motor cortex--revealed using fMRI. Cortex. 2010;46(3):310-321. doi:10.1016/j.cortex.2009.02.024
  9. Devanne H, Cassim F, Ethier C, Brizzi L, Thevenon A, Capaday C. The comparable size and overlapping nature of upper limb distal and proximal muscle representations in the human motor cortex. Eur J Neurosci. 2006;23(9):2467-2476. doi:10.1111/j.1460-9568.2006.04760.x
  10. Yokoyama H, Kaneko N, Ogawa T, Kawashima N, Watanabe K, Nakazawa K. Cortical Correlates of Locomotor Muscle Synergy Activation in Humans: An Electroencephalographic Decoding Study. iScience. 2019;15:623-639. doi:10.1016/j.isci.2019.04.008
  11. Tsao H, Galea MP, Hodges PW. Reorganization of the motor cortex is associated with postural control deficits in recurrent low back pain. Brain. 2008;131(Pt 8):2161-2171. doi:10.1093/brain/awn154
  12. Tyc F, Boyadjian A, Devanne H. Motor cortex plasticity induced by extensive training revealed by transcranial magnetic stimulation in human. Eur J Neurosci. 2005;21(1):259-266. doi:10.1111/j.1460-9568.2004.03835.x
  13. Pascual-Leone A, Nguyet D, Cohen LG, Brasil-Neto JP, Cammarota A, Hallett M. Modulation of muscle responses evoked by transcranial magnetic stimulation during the acquisition of new fine motor skills. J Neurophysiol. 1995;74(3):1037-1045. doi:10.1152/jn.1995.74.3.1037
  14. F T, A B. Cortical plasticity and motor activity studied with transcranial magnetic stimulation. Reviews in the neurosciences. 2006;17(5). doi:10.1515/revneuro.2006.17.5.469
  15. Mizuguchi N, Nakagawa K, Tazawa Y, Kanosue K, Nakazawa K. Functional plasticity of the ipsilateral primary sensorimotor cortex in an elite long jumper with below-knee amputation. NeuroImage: Clinical. 2019;23:101847. doi:10.1016/j.nicl.2019.101847
  16. Nakagawa K, Takemi M, Nakanishi T, Sasaki A, Nakazawa K. Cortical reorganization of lower-limb motor representations in an elite archery athlete with congenital amputation of both arms. NeuroImage: Clinical. 2020;25:102144. doi:10.1016/j.nicl.2019.102144
  17. Nakanishi T, Nakagawa K, Kobayashi H, Kudo K, Nakazawa K. Specific Brain Reorganization Underlying Superior Upper Limb Motor Function After Spinal Cord Injury: A Multimodal MRI Study. Neurorehabil Neural Repair. 2021;35(3):220-232. doi:10.1177/1545968321989347
  18. 中澤公孝 (2021). 「パラリンピックブレイン」東京大学出版会.

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