前十字靭帯損傷

前十字靭帯断裂後の筋力回復について

前十字靭帯断裂後は筋力発揮が抑制されてしまうことが起こりますが、その原因には様々な神経伝達の問題が関係している可能性があります。比較的シンプルなものから少々難解なものまで色々な議論があり、現在のスポーツ医学で明らかにされている前十字靭帯損傷に伴う筋力低下のメカニズムをざっくりとまとめてみようかと思います。

 

筋力回復の重要性

前十字靭帯断裂後は筋力が低下しやすく、筋力回復はその後のパフォーマンスや怪我予防のうえで重要です。

前十字靭帯損傷後は筋力が簡単に戻らない

 

神経の影響による筋力発揮の低下

前十字靭帯断裂による筋力発揮が抑制されることには神経の様々な部分が関係しており、要約すると次のようになります。

(Rice and McNair 2010より引用)

なかなか小難しいものが並んでいますが、それぞれの部分について簡単に述べていこうと思います。

 

侵害反射(Flexion reflex)

膝の痛み

痛みなどの刺激による神経の反射を指します。

痛みは神経伝達パターンを変化させる可能性があり、痛みをコントロールすることは大切です。

しかし、筋力発揮の抑制には他の要因も関わっているため一筋縄ではいかないようです。

前十字靭帯損傷後の筋力低下と痛みと腫れの関係

 

伸張反射(Ⅰb inhibition)

Tendon organ

参照https://slideplayer.com/slide/9328116/

筋肉周りには様々な神経が張り巡らされており、このうちlbと呼ばれる部分が筋力発揮の抑制に関係していると言われています。このlbと呼ばれる神経があるからこそ丁寧で繊細な動きが可能になるとか

前十字靭帯損傷に関しては膝が腫れている状態で引き起こされる筋力低下がこれに該当すると言われていますね

 

y-loop dysfunction

小難しい内容ですが、ざっくり言うとそれぞれの感覚器の連携にともなう神経伝達の問題といったところでしょうか。

(Rice and McNair 2010より引用)

こちらに関しては筋肉に振動を与えることで検証する方法があります。

正常な筋肉は振動を与え続けられることで当該神経伝達が阻害されて筋力発揮が一時的に抑制されます。一方で感覚器が適切に働いていないと筋肉に振動を与え続けられても反応がみられないようです。

前十字靭帯断裂と感覚入力による筋力発揮の低下について

 

刺激への反応(αMN exitability)

神経興奮

上記の神経の問題などが組み合わさることで、神経伝達などの刺激に対する反応が鈍くなることがあるようです。

これが筋肉の活動をうまく引き出せない原因になることがあると考えられています。

前十字靭帯断裂後は脳への刺激に対する反応が悪い?

 

怪我からの筋力回復方法

神経の影響によって単純に筋肉を鍛えるだけでは思うような効果が得られないこともあり、前十字靭帯損傷後の筋力回復には様々な方法が考えられています。

 

筋力トレーニング

筋力をつける王道の方法といえばやはり筋力トレーニングかと思います。

筋力トレーニングで筋力が回復するのが一番いいのですが、前十字靭帯断裂などの怪我においては神経伝達の問題が生じることで100%の筋力を発揮できず、おのずとトレーニング効果が低下してしまうことがあります。

レッグプレス

ウェイトトレーニングに取り組むことで前十字靭帯断裂した脚の筋力が回復していきます4〜6。特にエキセントリック収縮のほうが筋力回復の効果が高いとされています5〜6

前十字靭帯再建リハビリでのエキセントリック収縮と脳への刺激について

 

また、怪我をしていない方の脚も同時に鍛えることで筋力回復効果が高まると考えられています。

前十字靭帯再建リハビリで反対の脚もトレーニングをする効果

 

摂動トレーニング

片足バランス

予期せぬ負荷を与えるようなバランストレーニングによって感覚器を刺激することで筋力を回復させるという方法もあります。

前十字靭帯断裂後のリハビリと摂動トレーニング

 

経皮的電気神経刺激(TENS)

微弱な電気刺激を与えることで筋力発揮が抑制されているのが一時的に軽減されるようです。

電気刺激の詳細な設定方法については少し疑問が残るところではあります。

アイシングと電気刺激による筋力抑制の軽減について

 

神経筋電気刺激(NMES)

少し強めの電気を流して筋肉の収縮を促す方法です。

私がアメリカ留学していた時は電流の名前が”ロシアン”というものだったため「ロシアの拷問器具」なんて冗談を言っている選手もいました。

最近では一般の人向けに色々な器具が登場しており、ブームなんでしょうかね?

EMSトレーニング

 

経頭蓋磁気刺激(TMS)

(Lesley et al 2020より引用)

脳からの刺激を加えることで筋力発揮の回復に一定の効果あることが示唆されています

しかし、わからないことも多くどのくらい実用的なのか不明です。

 

皮膚からの感覚入力

膝の検査

皮膚からの感覚入力という刺激を用いることで筋力発揮を回復させられないか?という発想もあるようです

ただ、現時点では思うような結果は得られていないようです。

 

新たなる方法の研究

上記の方法が全てではなく、まだまだ科学ではわからないこともたくさんあります。

すでに筋力回復のためのいくつかのアイディアがあり、実際に怪我をしている人にもそれなりの効果を発揮しています。

前十字靭帯損傷したからといって諦めるには早く、まだまだ多くの可能性が眠っていると私は考えています。

前十字靭帯再建後のリハビリで見逃されやすいポイント

 

まとめ

怪我からの筋力回復には神経伝達の問題により筋力発揮が抑制されていることがあるため、筋力トレーニングの効果が低下しやすくなってしまうことがあります。こういった神経の働きを考慮しながらのリハビリなどを組み立てることで、より大きな効果を得られやすくなるのではないでしょうか。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

<参考文献>

  1. Rice DA, McNair PJ. Quadriceps arthrogenic muscle inhibition: neural mechanisms and treatment perspectives. Semin Arthritis Rheum. 2010;40(3):250-266.
  2. Pietrosimone BG, McLeod MM, Lepley AS. A theoretical framework for understanding neuromuscular response to lower extremity joint injury. Sports Health. 2012;4(1):31-35.
  3. Lepley AS, Ly MT, Grooms DR, Kinsella-Shaw JM, Lepley LK. Corticospinal tract structure and excitability in patients with anterior cruciate ligament reconstruction: A DTI and TMS study. NeuroImage: Clinical. 2020;25:102157.
  4. Bieler T, Sobol NA, Andersen LL, et al. The effects of high-intensity versus low-intensity resistance training on leg extensor power and recovery of knee function after ACL-reconstruction. Biomed Res Int. 2014;2014:278512. doi:10.1155/2014/278512
  5. Friedmann-Bette B, Profit F, Gwechenberger T, et al. Strength Training Effects on Muscular Regeneration after ACL Reconstruction. Medicine & Science in Sports & Exercise. 2018;50(6):1152-1161. doi:10.1249/MSS.0000000000001564
  6. Gerber JP, Marcus RL, Dibble LE, Greis PE, Burks RT, LaStayo PC. Effects of early progressive eccentric exercise on muscle size and function after anterior cruciate ligament reconstruction: a 1-year follow-up study of a randomized clinical trial. Physical Therapy. 2009;89(1):51-59. doi:10.2522/ptj.20070189
  7. Urbach D, Berth A, Awiszus F. Effect of transcranial magnetic stimulation on voluntary activation in patients with quadriceps weakness. Muscle Nerve. 2005;32(2):164-169.
  8. Yu Konishi and Ryuta Kinugasa. Establishment of Rehabilitation Strategy for the Patients with ACL Reconstruction. The article is retrieved from http://www.shinshu-u.ac.jp/faculty/textiles/db/seeds/descente34_14_konishi.pdf
  9. https://www.youtube.com/watch?v=kibzQYSwwe4

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