前十字靭帯損傷

前十字靭帯断裂からのスポーツへの復帰について

前十字靭帯断裂後のスポーツへの復帰には大きな議論があります。早くスポーツに復帰したいという気持ちと、不完全な状態で下手にスポーツに復帰すると前十字靭帯の再断裂などのリスクがあります。できるだけ怪我を減らしていきたいところですが怪我のリスクをゼロにできる指標がないため難しい判断が求められます。

 

概要

前十字靭帯の再断裂には様々な要因が関わっています

以下にいくつかの指標を挙げていますが、実際にはそれ以外にも様々な要因を検討して激しい議論が行われることも珍しくないかと思います。

科学的根拠は決して万能なものではありませんが、あくまで参考の一部にはなるのではないかなと思います。

 

筋力の左右差

前十字靭帯断裂後のリハビリで大切なことのひとつに筋力の回復があります。

 

怪我のリスク

怪我をした脚の筋力低下はその後の怪我のリスクに関係しています。

(Kyristsis et al 2016より引用)

  • 大腿四頭筋の筋力の左右差が1%上がるごとに膝を再度怪我するリスクが3%減ったという研究報告があり、大腿四頭筋の筋力不足は怪我のリスクを高めます
  • ハムストリングスの筋力不足も再断裂のリスクを高めていたそうです
  • 筋力の左右差は前十字靭帯断裂後のスポーツ復帰時の怪我に関わっており、上記の6つの基準を満たしていないと怪我のリスクが4倍になったという報告もあります

このようなことからリハビリで十分な筋力をつけることが大切になってきます。

 

筋力回復の度合い

前十字靭帯断裂した多くの人達はリハビリによって筋力が85%〜90%と基準値近くにあるそうです

その一方で再断裂したアスリートの多くは90%近くの筋力があったそうです

 

このようにある程度筋力が回復していたとしても、それだけで必ずしも怪我の再発を防げるわけでもないようです。

ひとつは簡単には筋力が100%にならないこと、そして筋力以外の要素も怪我に影響していると考えられます。

膝を押さえている様子
前十字靭帯損傷後は筋力が簡単に戻らない

怪我をした後には筋力が低下してしまい、これが簡単には元に戻らないことでさらなる怪我の悪化につながる可能性があります。リハビリを長期間頑張ったとしても怪我により身体や神経へと影響を及ぼし、そう簡単には筋 ...

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スポーツの動作

復帰するスポーツに近い動作を問題なく行えることも競技復帰への重要な指標のひとつになります。

 

ジャンプ動作

片足ジャンプの飛距離に左右差があると怪我のリスクが高まるようです

できれば怪我したほうの脚の飛距離は怪我をしていないほうの90%程度は欲しいところです。

 

ジャンプの着地の仕方やテクニックも膝への負担に影響を与える可能性があります。

膝の痛み
ジャンプの着地と前十字靭帯への負荷

前十字靭帯の断裂はジャンプの着地時などにも起こることから、ジャンプの着地の質が前十字靭帯損傷予防などで注目されることがあります。ジャンプのエクササイズは比較的気軽に取り入れることができ、使い勝手がいい ...

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カッティング動作

 

(Kyristsis et al 2016より引用)

いくつかの方法が考えられますが、上記のドリルを10秒以内という方法も用いられていることがあるようです

 

カッティング動作のテクニックも膝への負荷に影響がありますが、ここまでケアするのはなかなか大変な気もしています。

サッカーでの方向転換
スポーツの方向転換時の前十字靭帯への負荷について

スポーツにおける急な方向転換時に前十字靭帯を損傷してしまうケースは珍しくないかと思います。身体に負荷がかかりにくい動作を身につけることは怪我予防につながる可能性があり、どのような動作が前十字靭帯への負 ...

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手術からの経過時間

手術後にいつスポーツに復帰するのか?という時期も怪我のリスクに大きく関係しています。

時間と年月

  • 9ヶ月以後にスポーツ復帰することで怪我の再発が約50%減っていたことが報告されています
  • 若いアスリートは9ヶ月以前にスポーツに復帰すると3〜7倍怪我をしやすいという研究報告もあります

このように時間は大きな影響を与え、損傷した組織の回復などの大切な役割があります。筋力や機能が回復したとしても負傷部位が十分に回復していなかったら怪我のリスクが高くなってしまうことがあります。

早期復帰する場合にはリスクを知った上でしっかりとケアをしながら進めていくことが大切になってくるかと思います。

 

心理的要素

心理的な準備ができているかどうか?というのも大きな指標になります。

ポジティブな心理状態のほうが手術後の経過もいい傾向にあるようですが、だからといって「大丈夫!」と無理に自分に言い聞かせ続けるのはどうしたものかな〜と個人的には思います。

 

手術後にも膝が急にガクッと崩れて痛みが出るというような体験が続くと、どうしても怖くなってしまいます。

心理面が身体の異常を表している場合には、まずは膝をしっかりとケアしていくことが大事になってくるかもしれません。

 

前十字靭帯損傷における心理面による影響

前十字靭帯損傷をすると酷い痛みや可動域制限、筋力の低下などにより以前とは別のような脚であると感じてしまうことがあるかと思います。そういった変化は心理面にも大きな影響を与え、心理状態によってその後のパフ ...

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まとめ

複数の要因が絡み合っているためひとつの基準値だけで判断できないですし、早くスポーツに復帰したいというジレンマもあり、なかなか明確に判断をすることが難しいところであるかと思います。

安全を追求するのならば時間をかけつつ、できるだけいい状態を保つことが大切になってくるかと思います。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

<参考文献>

  1. Kaplan Y, Witvrouw E. When Is It Safe to Return to Sport After ACL Reconstruction? Reviewing the Criteria. Sports Health. 2019;11(4):301-305.
  2. Grindem H, Snyder-Mackler L, Moksnes H, Engebretsen L, Risberg MA. Simple decision rules can reduce reinjury risk by 84% after ACL reconstruction: the Delaware-Oslo ACL cohort study. Br J Sports Med. 2016;50(13):804-808.
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