前十字靭帯損傷

前十字靭帯損傷におけるバランス感覚の低下について

膝が不安定になることは前十字靭帯損傷のリスクとなるため、リハビリやトレーニングなどによるバランス感覚を改善していくことは大切です。

ここで前十字靭帯損傷によって膝の感覚がどのように変化するのかをご紹介していきたいと思います。

 

ポイント

  • 前十字靭帯断裂は身体のバランスを崩した時に起こりやすく、姿勢の制御は怪我予防に大切です。
  • 前十字靭帯断裂をすると感覚器を損傷し、膝の感覚が鈍くなり、バランス感覚の低下を引き起こします。
  • 感覚の低下は膝の負荷を高めるような動作のクセなどを生み出すことがあります。

 

バランス感覚について

一般的に前十字靭帯断裂は相手選手との接触時や膝のバランスを崩した時などに発生しやすいと考えられています。

このため身体のバランスを保つことは大切であり、バランス感覚の低下は怪我のリスクになると考えられます。

サッカー接触プレー

 

前十字靭帯損傷後のバランス感覚の低下

ひとくちにバランス感覚の低下といっても、人がバランスを維持するためには身体の様々なセンサーが相互に働いています。

前十字靭帯断裂によって身体の感覚器にどのような変化が生じるのかをみていきましょう。

 

前十字靭帯のセンサー(感覚受容器)

前十字靭帯損傷によって靭帯に備わっているセンサーも損傷してしまい、前十字靭帯損傷をした人の靭帯を採取し顕微鏡で確認すると、固有感覚器の数が通常よりも少なくなっているそうです

(Rebmann et al 2020より引用)

センサーの数が減少すれば膝のバランスが取りにくくなることも納得できるものがあるかと思います。

手術によって前十字靭帯の再建が行われますが、手術によって作られた靭帯では人が本来持っている感覚機能からは劣ってしまいます。

手術で再建した靭帯に生命を宿すことはできるのか?

 

触覚の感度(Vibration Perception)

触覚の認識する感度が低下すると、膝の状態を認識しにくくなり適切なポジション修正などがしにくくなる可能性があります。

  • 前十字靭帯断裂をした人は膝周りの振動を感じ取る能力が低下していたことが報告されています
  • 振動を検出する能力が低いとランジや階段の上り降りなどの動きで膝のポジションがズレやすい傾向があることが報告されています

このように触覚が鈍くなることはバランス感覚の低下につながると考えられています。

足裏への感覚刺激によるバランス改善について

 

関節位置感覚(Joint position sense)

膝関節の位置をつかみにくくなると、膝の負荷が増すようような動きになる可能性があります。

(Cronström and Ageberg 2014より引用)

  • 前十字靭帯を断裂した人は膝の位置を感じる精度が低くなることが研究で明らかになっています3・4
  • 膝の関節位置感覚の精度が低いとランジやジャンプ着地などにおいて膝の位置がズレやすいことが報告されています

 

視覚情報

視覚情報もバランスを保持するために重要です。

  • 前十字靭帯損傷をした人は目を閉じた時に身体のバランスを崩しやすいことが報告されています
  • 一方で同一の研究において目を開けた状態では大きな差はみられなかったことも興味深い点です

解釈が難しいところですが、前十字靭帯断裂をした人は視覚情報以外の働きが低下しているために視覚情報に頼っているところが大きくなっているのかもしれません。

 

感覚と脳神経の連携

手足の感覚情報は脳に送られ、脳を介して身体運動が行われています。

しかし、感覚情報が脳神経でうまく伝達されていないと身体をうまくコントロールできずに、怪我につながることがあります。

  • ある研究において脳の感覚皮質と小脳の機能結合が弱いと将来の前十字靭帯断裂の発生リスクが高まる可能性があることが報告されています

まだまだ研究数が少ない分野であるため証明力は限定的ではありますが、感覚と脳神経の連動性も怪我に関与している可能性を考えさせられます。

前十字靭帯損傷と脳の活動の変化について

 

バランス感覚の低下と前十字靭帯損傷の関係

バランス感覚が低下すると前十字靭帯損傷を起こしやすいというのは何となく理解できるかと思いますが、その因果関係についてもう少し詳しくみていきましょう。

 

バランス感覚と将来の前十字靭帯断裂のリスク

スポーツの複雑な動きにおいて前十字靭帯断裂が起こりやすく、こういった動きには高度なバランス感覚も必要となってきます。

(Plisky et al 2006より引用)

  • 片足バランスなどのパフォーマンスは将来の前十字靭帯損傷の発生率に関係していないことが報告されていますが8・9、よりスポーツに近い片足ジャンプや方向転換動作といった高度なバランスを要求される動作が前十字靭帯のリスクに関連しています。
  • 片足バランスといった単純な評価方法だけでは限界がありますが、こういったものは複雑なスポーツの動きの基礎となります。できるだけスポーツや競技に近い形へとつなげていくことが大切です。

多少のバランス感覚の低下が必ずしも怪我につながるとは限りませんが、著しいバランスの低下は怪我を招く可能性があるため注意した方がいいかもしれません。

 

怪我で脚を動かさないことによる影響

前十字靭帯断裂によって膝周りの感覚受容器が損傷し、センサーが働きにくくなることがバランス感覚の低下を引き起こしますが、

怪我によって脚を動かさなくなることもバランス感覚の低下につながります。

膝の手術

  • ある研究で健康な人の脚を1週間の固定することでバランス感覚が低下することが報告されています12

定期的に動いて適度な刺激を与えるということは脚の状態を維持するために欠かせないことで、治療やリハビリに取り組んで膝を動かせるようにすることも大切です。

怪我で身体を動かさないことによる脳神経への影響

 

改善方法など

一般的にバランストレーニングに取り組むことによって前十字靭帯損傷を防ぐ効果が期待されています。

目を閉じた状態でのバランス感覚や、片足ジャンプなどといったスポーツに近い形でのバランストレーニングなども取り入れていくことが役に立つかもしれません。

片足ルーマニアンデッドリフト

 

さらに、バランストレーニングに予期せぬ負荷を加えるという方法も役に立つかもしれません。

前十字靭帯断裂後のリハビリと摂動トレーニング

 

まとめ

前十字靭帯断裂によってバランス感覚の低下が引き起こされます。姿勢を制御して身体のバランスを保つことは怪我予防において重要であり、バランストレーニングなども忘れずに取り組んでおきたいところです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

<参考文献>

  1. Rebmman D, Ho M, H S, S HL, A B. Immunohistochemical analysis of sensory corpuscles in human transplants of the anterior cruciate ligament. Journal of orthopaedic surgery and research. 2020;15(1). doi:10.1186/s13018-020-01785-5
  2. Courtney CA, Atre P, Foucher KC, Alsouhibani AM. Hypoesthesia after anterior cruciate ligament reconstruction: The relationship between proprioception and vibration perception deficits in individuals greater than one year post-surgery. Knee. 2019;26(1):194-200. doi:10.1016/j.knee.2018.10.014
  3. Cronström A, Ageberg E. Association between sensory function and medio-lateral knee position during functional tasks in patients with anterior cruciate ligament injury. BMC Musculoskelet Disord. 2014;15:430. doi:10.1186/1471-2474-15-430
  4. Kim H-J, Lee J-H, Lee D-H. Proprioception in Patients With Anterior Cruciate Ligament Tears: A Meta-analysis Comparing Injured and Uninjured Limbs. Am J Sports Med. 2017;45(12):2916-2922. doi:10.1177/0363546516682231
  5. Okuda K, Abe N, Katayama Y, Senda M, Kuroda T, Inoue H. Effect of vision on postural sway in anterior cruciate ligament injured knees. J Orthop Sci. 2005;10(3):277-283. doi:10.1007/s00776-005-0893-9
  6. Diekfuss JA, Grooms DR, Yuan W, et al. Does brain functional connectivity contribute to musculoskeletal injury? A preliminary prospective analysis of a neural biomarker of ACL injury risk. Journal of Science and Medicine in Sport. 2019;22(2):169-174. doi:10.1016/j.jsams.2018.07.004
  7. Dai B, Layer JS, Bordelon NM, et al. Longitudinal assessments of balance and jump-landing performance before and after anterior cruciate ligament injuries in collegiate athletes. Res Sports Med. 2021;29(2):129-140. doi:10.1080/15438627.2020.1721290
  8. Fältström A, Hägglund M, Hedevik H, Kvist J. Poor Validity of Functional Performance Tests to Predict Knee Injury in Female Soccer Players With or Without Anterior Cruciate Ligament Reconstruction. Am J Sports Med. 2021;49(6):1441-1450. doi:10.1177/03635465211002541
  9. Steffen K, Nilstad A, Krosshaug T, Pasanen K, Killingmo A, Bahr R. No association between static and dynamic postural control and ACL injury risk among female elite handball and football players: a prospective study of 838 players. Br J Sports Med. 2017;51(4):253-259. doi:10.1136/bjsports-2016-097068
  10. Plisky PJ, Rauh MJ, Kaminski TW, Underwood FB. Star Excursion Balance Test as a predictor of lower extremity injury in high school basketball players. J Orthop Sports Phys Ther. 2006;36(12):911-919. doi:10.2519/jospt.2006.2244
  11. Caplan N, Forbes A, Radha S, et al. Effects of 1 week of unilateral ankle immobilization on plantar-flexor strength, balance, and walking speed: a pilot study in asymptomatic volunteers. J Sport Rehabil. 2015;24(2):156-162. doi:10.1123/jsr.2013-0137

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