前十字靭帯損傷

女性アスリートの前十字靭帯断裂のメカニズム

女性アスリートならではの前十字靭帯損傷のメカニズムが議論されることがあります。

今回の記事はあくまで男女の違いを研究したデータを紹介しており、性別の価値観などに対する意見や批判をする意図はないことをご了承ください。

※アメリカの授業では性別の多様性に配慮してBiological female(生物学上の女性)などと説明することもあります。

 

ポイント

  • 女性のほうがスポーツに伴う前十字靭帯断裂が多い傾向にあるようです。
  • 骨格の違いにより前十字靭帯への負荷が高まる可能性があるようです。
  • ホルモンも前十字靭帯の強度に影響を与える可能性があるようです。

 

怪我の発生率の男女差

男性よりも女性のほうが前十字靭帯断裂が多いことが複数の研究で報告されています1〜3

女子サッカー

興味深いことに女性は利き足ではない方の脚の前十字靭帯断裂が少しばかり多い傾向にあるというデータもあるようです4・5

 

偶然か必然かはわかりませんが、性別により怪我のメカニズムに少しばかり影響するのかもしれません。

 

骨格等による影響

男女の骨格の違いがあり、これが前十字靭帯断裂のメカニズムに関係している可能性が考えられています。

 

膝の角度(Q角・Q-angle)

男女の骨格の違いで有名なもののひとつに膝の角度があります。

(Huston et al 2000より引用)

  • 女性は上記の写真のような膝のQ角が大きい傾向にあり、一般的にはこれが膝への負荷を高めると考えられています。
  • 一方でQ角は膝の外反の負荷に大きな影響を与えるわけではないという研究結果もあるようです

比較的有名な説だと思うのですが、意外にも膝のQ角は前十字靭帯損傷との関係性において強い科学的根拠はみられませんでした。

Q角と怪我のメカニズムに関して、詳しくはこちらの記事をご覧ください。

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骨盤の大きさ

男女の骨盤の違いが膝の負荷に影響を与える可能性も考えられています。

男女の骨盤の違い

ある研究では膝のQ角よりも骨盤の大きさのほうが膝の外反の負荷に関係していることが報告されています

ただ、研究数が少なかったことからそこまで強い科学的根拠があるわけではないかと思います。

 

大腿骨顆間窩(Femoral Notch)

 

(Huston et al 2000より引用)

男性と比べて女性は骨格上は前十字靭帯周辺のスペースが狭い傾向にあり、これによって前十字靭帯への負荷が高まりやすい可能性が考えられています

前十字靭帯断裂をした女性は前十字靭帯周辺のスペースが狭い傾向にあったことが複数の研究で報告されています8・9

(Huston et al 2000より引用)

 

筋力による影響

筋力も前十字靭帯断裂に影響しているかもしれません。

女性アスリート

  • 体重あたりの筋力比に換算しても男性と比べて女性のほうが筋力が弱い傾向にあります
  • 男性と比べて女性のほうが大腿四頭筋に対してハムストリングスの筋力が弱い傾向にあることが報告されています10

筋力不足によって前十字靭帯損傷を引き起こしやすいことから、これもひとつの要因として考えられるかもしれません。

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ホルモン等による影響

女性ホルモンの働きが前十字靭帯断裂に関係しているのではないか?という議論があります。

女性ホルモン

  • 排卵期(ovulatory phase)には前十字靭帯が少しばかり緩み、靭帯の強度が低下していることがメタ分析で報告されています11
  • 経口の避妊薬を服用することで前十字靭帯の緩みが減少し、前十字靭帯断裂の発生率が少しばかり減少することがシステマティックレビューによる研究で報告されています12
  • 一方で生理の周期による靭帯の緩みは前十字靭帯断裂の発生率と関係がみられなかったことがメタ分析により報告されています13

このように議論が残るところですが、ホルモンの分泌は靭帯の強度に影響を与える可能性があります。

ただ、怪我の要因は他にもたくさんあるため、これだけで怪我をするかどうか決まるわけではない、と理解しておくのが無難かもしれません。

 

神経等による影響

神経などによる働きによって膝の負荷が変わってくる可能性も考えられます。

 

動きのクセ

男女間で膝の動きのクセに違いがあるかもしれません。

女性バスケットボール

  • 女性のほうが膝の角度が浅く、膝の外反が大きい傾向にあるようです14・15
  • 男女間で筋肉の活動パターンも微妙に違うことが報告されています15

神経による全身のコーディネーションが制御されている影響なのか、あるいは骨格などによる違いを反映しているのか、

詳細なメカニズムはわかりませんが、男女で動きのクセに違いが表れることがあるかもしれません。

 

脳神経による影響

男女の脳の働きの違いがもしかしたら前十字靭帯断裂に関係しているのではないか?という意見もあるようです。

男女で脳の構造や処理や認知に微妙に違いがあったりするようで16、そういった可能性も研究されているようです。

ただ、男女の脳の働きと前十字靭帯断裂に関する強い科学的根拠はなく、可能性のひとつとして一応記しておきたいと思います。

 

まとめ

女性のほうが前十字靭帯断裂が多い傾向にありますが、そのメカニズムには様々なものが考えられているようです。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

<参考文献>

  1. Beynnon BD, Vacek PM, Newell MK, et al. The Effects of Level of Competition, Sport, and Sex on the Incidence of First-Time Noncontact Anterior Cruciate Ligament Injury. Am J Sports Med. 2014;42(8):1806-1812. doi:10.1177/0363546514540862
  2. Gornitzky AL, Lott A, Yellin JL, Fabricant PD, Lawrence JT, Ganley TJ. Sport-Specific Yearly Risk and Incidence of Anterior Cruciate Ligament Tears in High School Athletes: A Systematic Review and Meta-analysis. Am J Sports Med. 2016;44(10):2716-2723. doi:10.1177/0363546515617742
  3. Stanley LE, Kerr ZY, Dompier TP, Padua DA. Sex Differences in the Incidence of Anterior Cruciate Ligament, Medial Collateral Ligament, and Meniscal Injuries in Collegiate and High School Sports: 2009-2010 Through 2013-2014. Am J Sports Med. 2016;44(6):1565-1572. doi:10.1177/0363546516630927
  4. Ruedl G, Webhofer M, Helle K, et al. Leg dominance is a risk factor for noncontact anterior cruciate ligament injuries in female recreational skiers. Am J Sports Med. 2012;40(6):1269-1273. doi:10.1177/0363546512439027
  5. Brophy R, Silvers HJ, Gonzales T, Mandelbaum BR. Gender influences: the role of leg dominance in ACL injury among soccer players. Br J Sports Med. 2010;44(10):694-697. doi:10.1136/bjsm.2008.051243
  6. Huston LJ, Greenfield ML, Wojtys EM. Anterior cruciate ligament injuries in the female athlete. Potential risk factors. Clin Orthop Relat Res. 2000;(372):50-63. doi:10.1097/00003086-200003000-00007
  7. Pantano KJ, White SC, Gilchrist LA, Leddy J. Differences in peak knee valgus angles between individuals with high and low Q-angles during a single limb squat. Clin Biomech (Bristol, Avon). 2005;20(9):966-972. doi:10.1016/j.clinbiomech.2005.05.008
  8. Miljko M, Grle M, Kozul S, Kolobarić M, Djak I. Intercondylar notch width and inner angle of lateral femoral condyle as the risk factors for anterior cruciate ligament injury in female handball players in Herzegovina. Coll Antropol. 2012;36(1):195-200.
  9. Al-Saeed O, Brown M, Athyal R, Sheikh M. Association of femoral intercondylar notch morphology, width index and the risk of anterior cruciate ligament injury. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2013;21(3):678-682. doi:10.1007/s00167-012-2038-y
  10. El-Ashker S, Carson BP, Ayala F, De Ste Croix M. Sex-related differences in joint-angle-specific functional hamstring-to-quadriceps strength ratios. Knee Surg Sports Traumatol Arthrosc. 2017;25(3):949-957. doi:10.1007/s00167-015-3684-7
  11. Herzberg SD, Motu’apuaka ML, Lambert W, Fu R, Brady J, Guise J-M. The Effect of Menstrual Cycle and Contraceptives on ACL Injuries and Laxity: A Systematic Review and Meta-analysis. Orthop J Sports Med. 2017;5(7):2325967117718781. doi:10.1177/2325967117718781
  12. Konopka JA, Hsue LJ, Dragoo JL. Effect of Oral Contraceptives on Soft Tissue Injury Risk, Soft Tissue Laxity, and Muscle Strength: A Systematic Review of the Literature. Orthop J Sports Med. 2019;7(3):2325967119831061. doi:10.1177/2325967119831061
  13. Somerson JS, Isby IJ, Hagen MS, Kweon CY, Gee AO. The Menstrual Cycle May Affect Anterior Knee Laxity and the Rate of Anterior Cruciate Ligament Rupture: A Systematic Review and Meta-Analysis. JBJS Rev. 2019;7(9):e2. doi:10.2106/JBJS.RVW.18.00198
  14. Malinzak RA, Colby SM, Kirkendall DT, Yu B, Garrett WE. A comparison of knee joint motion patterns between men and women in selected athletic tasks. Clin Biomech (Bristol, Avon). 2001;16(5):438-445. doi:10.1016/s0268-0033(01)00019-5
  15. Zeller BL, McCrory JL, Kibler WB, Uhl TL. Differences in kinematics and electromyographic activity between men and women during the single-legged squat. Am J Sports Med. 2003;31(3):449-456. doi:10.1177/03635465030310032101
  16. Grooms DR, Onate JA. Neuroscience Application to Noncontact Anterior Cruciate Ligament Injury Prevention. Sports Health. 2016;8(2):149-152.

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