前十字靭帯損傷

女性ホルモンが前十字靭帯損傷の原因になるのか?

エストロゲン

女性アスリートは前十字靭帯損傷が多い傾向にあり、女性ならではの怪我のメカニズムが議論されています。

その中でも女性ホルモンが前十字靭帯損傷に関わっているという説もあります。

ここで関連する文献を紹介しながら、その影響についてご紹介していきたいと思います。

 

ポイント

  • 女性アスリートは男性アスリートに比べて前十字靭帯損傷の発生率が高い傾向にあります。
  • 女性ホルモンの分泌量によっては前十字靭帯の強度が低下することがあります。
  • 統計上は女性ホルモンの分泌と前十字靭帯の発生率に強い関係性はないようです。

 

女性ホルモンと前十字靭帯断裂のリスク

女性アスリートは相対的に前十字靭帯損傷が多いことが複数の研究で報告されています1〜3

女性ホルモンの働きが前十字靭帯に関係している可能性が考えられており、ホルモンの分泌次第では靭帯や筋力など身体の様々な要素に影響を与えるようです。

 

女性ホルモンと靭帯の強度

生理の周期によって前十字靭帯の強度が変わると考えられています。

女性ホルモン

  • 排卵期(ovulatory phase)には女性ホルモンの分泌が増えることで、少しばかり靭帯の強度が低下していることがメタ分析などによる研究で明らかになっています4・5

このことから女性ホルモンが前十字靭帯断裂に関わっていると考えられることもあるようです。

 

経口避妊薬による影響

経口避妊薬を服用することで前十字靭帯損傷が起こりにくくなるという説もあるようです。

(Chidi-Ogbolu and Baar 2018より引用)

  • 経口の避妊薬を服用することで女性ホルモンの分泌が抑制され、これによって前十字靭帯の緩みが減少し、結果として前十字靭帯断裂が少なくなることが報告されています

このことから女性ホルモンが前十字靭帯損傷に何らかの影響を与えることが考えられます。

 

女性ホルモンと筋力

生理の周期によって筋力にも影響を及ぼす可能性があります。

女性ホルモン

卵胞期(follicular phase )は黄体期(Luteal phase)に比べて筋力が劣る傾向にあることが報告されていますが

異なる研究結果も多く明確な答えは得られていないようです。

 

生理の周期と前十字靭帯断裂の発生率

排卵期には靭帯が緩みやすく、この時期には前十字靭帯断裂が起きやすいという考え方があります。

(Chidi-Ogbolu and Baar 2018より引用)

しかし、必ずしも特定の生理の周期と前十字靭帯の発生率は関係するとは限らないことが明らかになっています

これは証明力の強いメタ分析による研究結果となっており、生理の周期や女性ホルモンが前十字靭帯断裂の決定的な要因ではないと考えられます。

 

というのも前十字靭帯断裂は女性ホルモン以外にも様々な要因によって影響を受けます。

女性アスリートの前十字靭帯断裂のメカニズム

 

思春期の女性アスリートの前十字靭帯損傷

高校生や大学生の女性アスリートは前十字靭帯損傷が多い傾向にあります10

これはスポーツの競技レベルの向上によって身体への負荷が増えること、あるいは思春期ならではの要因が相まって前十字靭帯損傷のリスクが高まる可能性が考えられます。

 

成長期の靭帯の強度の変化

成長期を迎えた女性アスリートは膝関節や靭帯が弱く、怪我をしやすい状態になることもあるようです。

女子サッカー

  • ある研究では成長期を迎えると関節が緩くなることが報告されています11
  • 成長期を迎えた女性は前十字靭帯のサイズが小さい傾向にあることが報告されています12

明確なメカニズムはわかっていませんが、成長期は靭帯が弱くなってしまうこともあるのかもしれません。

 

相対的な筋力の変化

身体の変化が著しい時期には、相対的な筋力不足が起こることも考えられます。

膝の解剖

  • 急激な身体の成長に筋力が追いつかない可能性があることが複数の研究で示唆されています12〜14
  • 成長期にはスポーツ時の膝の負荷も増えやすく15、筋力が追いつかないと膝のニーインといった膝の負荷につながるような動作のクセも生まれることもあるようです16

 

食事などによる影響

食事や心理面による影響によって怪我をしやすくなることも珍しくありません。

拒食症

過度な食事制限やダイエットなどによって身体に十分な栄養が行き渡らないと、スポーツにおける靭帯のダメージが少しずつ蓄積していく可能性が考えられます。

このような状態が長期化すると、突発的な前十字靭帯断裂も起こりうるかもしれません。

前十字靭帯の強度や耐久性の低下について

 

まとめ

女性ホルモンの分泌によって前十字靭帯の強度が多少弱くなることもあるかもしれませんが、前十字靭帯断裂の決定的要因とまでは言い切れないようです。

女性アスリートの前十字靭帯断裂が多いことから、身体のケアやトレーニングをしっかりと行うことが大切になるかと思います。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

<参考文献>

  1. Beynnon BD, Vacek PM, Newell MK, et al. The Effects of Level of Competition, Sport, and Sex on the Incidence of First-Time Noncontact Anterior Cruciate Ligament Injury. Am J Sports Med. 2014;42(8):1806-1812. doi:10.1177/0363546514540862
  2. Gornitzky AL, Lott A, Yellin JL, Fabricant PD, Lawrence JT, Ganley TJ. Sport-Specific Yearly Risk and Incidence of Anterior Cruciate Ligament Tears in High School Athletes: A Systematic Review and Meta-analysis. Am J Sports Med. 2016;44(10):2716-2723. doi:10.1177/0363546515617742
  3. Stanley LE, Kerr ZY, Dompier TP, Padua DA. Sex Differences in the Incidence of Anterior Cruciate Ligament, Medial Collateral Ligament, and Meniscal Injuries in Collegiate and High School Sports: 2009-2010 Through 2013-2014. Am J Sports Med. 2016;44(6):1565-1572. doi:10.1177/0363546516630927
  4. Chidi-Ogbolu N, Baar K. Effect of Estrogen on Musculoskeletal Performance and Injury Risk. Front Physiol. 2018;9:1834. doi:10.3389/fphys.2018.01834
  5. Herzberg SD, Motu’apuaka ML, Lambert W, Fu R, Brady J, Guise J-M. The Effect of Menstrual Cycle and Contraceptives on ACL Injuries and Laxity: A Systematic Review and Meta-analysis. Orthop J Sports Med. 2017;5(7):2325967117718781. doi:10.1177/2325967117718781
  6. Balachandar V, Marciniak J-L, Wall O, Balachandar C. Effects of the menstrual cycle on lower-limb biomechanics, neuromuscular control, and anterior cruciate ligament injury risk: a systematic review. Muscles Ligaments Tendons J. 2017;7(1):136-146. doi:10.11138/mltj/2017.7.1.136
  7. Konopka JA, Hsue LJ, Dragoo JL. Effect of Oral Contraceptives on Soft Tissue Injury Risk, Soft Tissue Laxity, and Muscle Strength: A Systematic Review of the Literature. Orthop J Sports Med. 2019;7(3):2325967119831061. doi:10.1177/2325967119831061
  8. Dos Santos Andrade M, Mascarin NC, Foster R, de Jármy di Bella ZI, Vancini RL, Barbosa de Lira CA. Is muscular strength balance influenced by menstrual cycle in female soccer players? J Sports Med Phys Fitness. 2017;57(6):859-864. doi:10.23736/S0022-4707.16.06290-3
  9. Somerson JS, Isby IJ, Hagen MS, Kweon CY, Gee AO. The Menstrual Cycle May Affect Anterior Knee Laxity and the Rate of Anterior Cruciate Ligament Rupture: A Systematic Review and Meta-Analysis. JBJS Rev. 2019;7(9):e2. doi:10.2106/JBJS.RVW.18.00198
  10. Beynnon BD, Vacek PM, Newell MK, et al. The Effects of Level of Competition, Sport, and Sex on the Incidence of First-Time Noncontact Anterior Cruciate Ligament Injury. Am J Sports Med. 2014;42(8):1806-1812. doi:10.1177/0363546514540862
  11. Quatman CE, Ford KR, Myer GD, Paterno MV, Hewett TE. The effects of gender and pubertal status on generalized joint laxity in young athletes. J Sci Med Sport. 2008;11(3):257-263. doi:10.1016/j.jsams.2007.05.005
  12. Davidson SP, McLean SG. Effects of maturation on combined female muscle strength and ACL structural factors. J Sci Med Sport. 2016;19(7):553-558. doi:10.1016/j.jsams.2015.07.016
  13. Myer GD, Ford KR, Divine JG, Wall EJ, Kahanov L, Hewett TE. Longitudinal assessment of noncontact anterior cruciate ligament injury risk factors during maturation in a female athlete: a case report. J Athl Train. 2009;44(1):101-109. doi:10.4085/1062-6050-44.1.101
  14. Ford KR, Myer GD, Hewett TE. Longitudinal Effects of Maturation on Lower Extremity Joint Stiffness in Adolescent Athletes. Am J Sports Med. 2010;38(9):1829-1837. doi:10.1177/0363546510367425
  15. DiCesare CA, Montalvo A, Barber Foss KD, et al. Lower Extremity Biomechanics Are Altered Across Maturation in Sport-Specialized Female Adolescent Athletes. Front Pediatr. 2019;7:268. doi:10.3389/fped.2019.00268
  16. Hewett TE, Myer GD, Ford KR. Decrease in neuromuscular control about the knee with maturation in female athletes. J Bone Joint Surg Am. 2004;86(8):1601-1608. doi:10.2106/00004623-200408000-00001

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