前十字靭帯を損傷すると長いリハビリに取り組む必要があります。痛みと戦いながら、可動域を確保し、筋肉を鍛えながらできるだけ元の筋力を取り戻すように地道なことを積み重ねていく必要があります。
一般的には太ももの筋肉のバランスなどが注目されることが多いのですが、その他の筋肉を鍛えることでも前十字靭帯損傷を防ぐことに役立つ可能性があります。
ポイント
- 腓腹筋やヒラメ筋は前十字靭帯への負荷を軽減する可能性があります
- ヒラメ筋が特に前十字靭帯を安定させる効果が高いようです
- これらの筋肉もしっかりと鍛えることが役に立つかもしれません
腓腹筋による前十字靭帯の負荷の軽減
腓腹筋を鍛えることで前十字靭帯への負荷を軽減できる可能性があります。
- ある研究では前十字靭帯損傷を経験した人の腓腹筋の活動が長くなっている傾向にあったそうです1。
- 前十字靭帯損傷を経験した人は腓腹筋だけでなく前脛骨筋の活動も長くなっている傾向にあったそうです2。
このように前十字靭帯損傷による不安定さを補うために周辺の筋肉を固めていくことで、膝の安定性を確保しているのではないかと考えられます。
腓腹筋の外側と内側について
腓腹筋の繊維によってその機能が微妙に違ってくることもあるようです。
- 腓腹筋の外側頭はその繊維の長さから弾力的な筋力の発揮に大きく貢献している可能性があります3。
- 内側頭についてはジャンプなどの爆発的な筋力発揮にやや劣る可能性があります。というのも片足ジャンプ中の腓腹筋の内側頭をエコー検査で調べたところ、筋肉がそこまで伸びているわけではなかったそうです4。
このようにそれぞれの筋肉によって微妙に機能が違ってきますが、基本的には前十字靭帯の負荷の軽減に何らかの形で貢献している可能性があります。
ヒラメ筋による前十字靭帯への負荷の軽減
ヒラメ筋を鍛えることは前十字靭帯の負荷を軽減するうえで、思っている以上に価値があるかもしれません。
献体を使った研究において足首を背屈させて下腿の筋肉の張力を増やしたところ、前十字靭帯の負荷が軽減されていたそうです5。この効果は腓腹筋を切断しても継続していたそうですが、ヒラメ筋を切断すると消失したそうです。
このことから腓腹筋とヒラメ筋のどちらも前十字靭帯の負荷を軽減させる効果があるが、ヒラメ筋のほうがより効果的ではないかと考えられます。
ついつい忘れがちなヒラメ筋もしっかりと鍛えておくことが前十字靭帯の負荷を軽減させるのに役に立つ可能性があります。
まとめ
前十字靭帯再建後のリハビリにおいては膝周りの筋肉が注目されがちですが、その他の周りの筋肉にも一定の効果があります。
全ての筋肉には役割があり細かい筋肉も忘れずにしっかりと鍛えておくことが大切になってくるかと思います。
<参考文献>
Klyne DM, Keays SL, Bullock-Saxton JE, Newcombe PA. The effect of anterior cruciate ligament rupture on the timing and amplitude of gastrocnemius muscle activation: a study of alterations in EMG measures and their relationship to knee joint stability. J Electromyogr Kinesiol. 2012;22(3):446-455.
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Kawakami Y, Ichinose Y, Fukunaga T. Architectural and functional features of human triceps surae muscles during contraction. J Appl Physiol. 1998;85(2):398-404.
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Sherbondy PS, Queale WS, McFarland EG, Mizuno Y, Cosgarea AJ. Soleus and gastrocnemius muscle loading decreases anterior tibial translation in anterior cruciate ligament intact and deficient knees. J Knee Surg. 2003;16(3):152-158.