前十字靭帯損傷

前十字靭帯再建手術〜膝蓋腱(BTB)とハムストリングス腱による影響

前十字靭帯再建手術には様々なものがあり、手術方法次第では身体への影響が微妙に違ってくると言われることがあります。

特に採取した腱の付近の機能低下といった影響が考えられるため、リハビリの方針なども変わってくることがあります。

ここで前十字靭帯再建手術の方法によってどのように身体の機能が変わってくるのかを紹介していきたいと思います。

 

ポイント

  • 前十字靭帯再建手術には主に膝蓋腱かハムストリングスの腱を移植する二つの方法があります。
  • どちらの方法を選んでも膝の状態や再断裂の可能性などそこまで大きな違いはないようです。
  • 採取した腱の付近の機能低下という可能性も一応は頭の片隅に入れておいて損はないかもしれません。

 

前十字靭帯再建手術の種類

前十字靭帯再建手術には大きく分けて膝蓋腱とハムストリングスの腱を使う二種類の方法に分類されます。

厳密にはたくさんの手術方法があるため手術の方法が細分化されていくのですが、あくまでこの二種類で比べられることが多く、今回の記事においてもこの二つの方法を比べています。

 

膝蓋腱(BTB; Bone-patellar Tendon-Bone )

骨付き膝蓋腱を移植して前十字靭帯を再建する手術方法で、一般的にBTBなどと呼ばれることがあります。

前十字靭帯再建手術ではこの方法を用いられることが多い印象を受けています。

 

ハムストリングスの腱(ST; Semitendinosus)

近年ではハムストリングスの腱を移植する方法も徐々に増えてきているという話もあり、病院によってはハムストリングスの腱を移植する方法が主流にしているところもあるようです。

ハムストリングス

 

手術方法と靭帯の強度

どちらの手術方法でも手術後に一定期間を経てば十分な強度になるのですが、手術直後は再建した靭帯が仮固定されているだけであり強度が弱い状態になっています。

前十字靭帯

  • BTBの場合には骨と骨によって固定しますが、ハムストリングスの場合には腱を骨に固定するために手術直後は強度が少し弱くなると考えられています
  • 手術後6ヶ月時点の回復度合いをMRIで調べてみると、ハムストリングスの腱を移植した場合のほうが少しばかり手術部位の修復が遅い傾向にあるようです

このように回復速度に若干の違いがあるためハムストリングスの腱を移植した場合にはリハビリの負荷をさげてゆっくり行ったほうがいいのではないか?という意見もあるようです。

 

手術方法と膝の安定性

どちらの手術方法を選択するかで膝の安定性が微妙に変わってくる場合もあるかもしれません。

芝生スパイク

  • 手術後数年間の調査ではBTBと比べるとハムストリングスのほうが膝の安定性が少しばかり弱い傾向にあったことが報告されています3・4
  • BTBのほうが膝の回旋に対する安定性があることがメタ分析による研究で明らかになっています
  • 一方でBTBとハムストリングスにおいて一般的な膝の緩さに大きな違いはないという研究結果もメタ分析で報告されています5・6

このようにBTBによる前十字靭帯再建のほうが膝の安定性が少しばかり優れている可能性があるようです。

あくまでわずかな差であり、ハムストリングスの腱を使った再建術も選択肢として十分に考えられるかと思います。

 

手術方法と膝の回復度合い

どちらの手術方法でも膝の回復度合いにそこまで大きな違いは生まれないようです。

 

膝の状態

どちらの手術方法を選んでも膝は十分に回復する可能性があると考えられています。

膝の痛み

メタ分析による研究ではどちらの手術方法でも総合的な膝の状態や機能に大きな差はみられないことがで明らかになっています5・6

 

筋力やパフォーマンス

手術のためにどこから腱を移植するかによって筋力やパフォーマンスが変わってくるかもしれません。

  • ハムストリングスの腱を移植したグループはハムストリングスの筋力が相対的に弱かった傾向にあることが報告されています。なお大腿四頭筋の筋力に差はみられなかったそうです。
  • BTBのほうがバランスやジャンプのパフォーマンスが低下している傾向にあったそうです
  • 手術方法によって筋力に大きな違いはないとする研究結果もあります

このように異なる研究結果が報告されており、明らかな筋力低下が起こるかどうかは微妙なところです。

時間が経てば採取された部分が治癒していくので筋力に与える影響は限定的なのかもしれません。

 

スポーツ復帰

BTBによる手術のほうが少しばかりスポーツ復帰しやすい傾向にあることがメタ分析による研究で明らかになっています5・10

芝生スタジアム

あくまでもわずかな差であり、手術方法によって実質的な影響はそこまで大きくないようです。

 

手術方法と怪我の発生率

どちらの手術方法の選択しても総合的な怪我の発生率に大きな違いはないようですが、痛みや怪我が発症する部位などに違いが生まれるかもしれません。

 

前十字靭帯の再断裂

BTBのほうがわずかに再断裂の確率が少ないようですが、再断裂の確率にそこまで大きな違いはないようです。

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  • ハムストリングスの腱を移植したグループのほうが再断裂しやすい傾向にあることがメタ分析による研究で明らかになっています11・13
  • 一方でどちらの手術方法でも再断裂に大きな差はないとする研究も複数あります5・6・10

前十字靭帯断裂からのスポーツへの復帰と再断裂について

 

変形性膝関節症

BTBのほうがわずかに変形性膝関節症の発症率が高まるかもしれませんが、どちらの手術方法を選んでもそこまで大きな違いはないようです。

変形性膝関節症

  • どちらの手術方法でもその後の変形性膝関節症の発生率に大きな違いはないことが複数の研究で明らかになっています12〜14
  • 一方でBTBによる手術のほうが変形性膝関節症が発症しやすいという研究結果もあるようです15

前十字靭帯断裂後の変形性膝関節症のリスク要因について

 

膝の痛み

これは膝の前部から腱を移植しているため、膝の機能低下などが膝の前部の痛みと関係しているのかもしれません。

BTBのほうが膝の前部に痛みが発症しやすい傾向にあることがメタ分析による研究で報告されています5・13

 

ハムストリングスの肉離れ

ハムストリングスの肉離れ

ハムストリングの腱を移植した場合にはその周辺部位の機能低下が考えられ、ハムストリングスの肉離れなどにつながる可能性もあるかもしれません。

しかし、手術方法の違いによるハムストリングスの発生率に関する研究は見つけることができませんでした。

ハムストリングスの肉離れのメカニズム

 

まとめ

微妙な違いはあるもののどちらの手術方法も一定の効果があるようで、どのような手術が望ましいのかは整形外科医の判断によるところが大きいです。

術後のケアやリハビリにおいてこれらの手術方法によって明確な違いがあるかどうかは微妙なところかもしれませんが、可能性のひとつとして考慮しておいた方がいいかと思います。

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

 

<参考文献>

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