前十字靭帯断裂をした人にとって膝のサポーターは不要だ、という意見があります。サポーターを使わなくてもいいくらいに脚をしっかりと鍛えなさいという意味なのだと思います。
確かに脚を鍛えることで問題が解決されるのならば、これが最善の方法であると思います。しかし、頭ではわかっているけれどサポーターなしでは難しい現実も時にはあるかと思います。
ポイント
- スポーツ時の前十字靭帯損傷と膝のサポーターの効果に対する科学的根拠は弱いようです
- サポーターがもたらす安心感などの心理的な効果も考慮することも大切です
- 膝のサポーターだけでは限界があるので、リハビリに取り組み膝の機能を高めることが大切です
Contents
膝のサポーターの種類
膝のサポーターにはたくさんの種類がありますが、文献などを読むための便宜上次のふたつを対象として話を進めさせていただきたいと思います。
参照https://www.braceability.com/blogs/articles/the-four-types-of-knee-braces
それぞれ定義が異なりますが、実際のところは境界線が明確でなかったり中間に位置するような膝のサポーターもあります。今回はそのような細かいところは省略させていただきます。
Functional Brace(機能的サポーター)の効果
これは前十字靭帯損傷後のリハビリを助ける、膝の安定性を助ける、といった機能の膝のサポーターのことを指します。これに関する研究を軽く調べたところ、次のようなものがあります。
- 膝のサポーターとただのスリーブで前十字靭帯損傷後1年2年と経過した時に大きな差が見られなかった1。
- 前十字靭帯損傷した人が膝のサポーターをつけてもジャンプ動作などにおいて大きな差はみられない傾向にあったが、ちらほら改善した場合もなくはない2。
- 膝のサポーターに効果があるとする結論は出すことができない3。
- 前十字靭帯損傷した人が膝のサポーターをすることで膝の屈曲の筋力が弱くなることが多いが、人によっては変化なし、むしろ強くなったという例もある4。
- 膝のサポーターをすることでジャンプの着地時の外側広筋の活動の低下する傾向がみられた5。
- 膝のサポーターをすることで疲労時の筋肉の活動が低下する可能性がある6。
- 膝のサポーターをしていると膝の負荷が軽減される7・8。
とこのように軽くざっくりと調べてみただけでも、効果が薄いのではないかと思わせるような文献があふれています。
Prophylactic Brace(傷害予防サポーター)の効果
これは膝の傷害予防を目的としたサポーターで、靭帯の機能を補助すると考えられています。これに関する研究を軽く調べたところ、次のようなものがあります。
- 膝のサポーターをすることでジャンプの着地時の地面からの力が軽減される傾向にあった9。
- 膝のサポーターをすることで外部からの力が加わった時の負荷が軽減される場合もあれば、負荷が増える場合もあり、どのような種類の負荷がかかるのかによってその効果が変わる可能性がある10。
- 膝のサポーターをしていてもジャンプなどのパフォーマンスは変わらない11。
- 膝のサポーターをしていても、していなくても片足ジャンプ時の膝の衝撃吸収はさほど変わらない12。
- 膝のサポーターをすることで膝の負担が軽減されるが、パフォーマンスの低下や足がつるなどのマイナスな効果もある13。
- 膝のサポーターをすることで怪我の発症率が減るかどうかは選手のポジションによって異なる。そして、膝のサポーターをしていても怪我の重症度に大きな違いはない14。
というように、同じくざっくりと調べてみてもあまりポジティブな結果は多くない印象を受けています。
サポーターの知られざるメカニズム
興味深いことにサポーター膝関節を圧迫することも膝の機能に関わっている可能性があります。
サポーターなどで膝関節を圧迫する効果
サポーターなどで膝関節を圧迫することで膝の機能が少しばかり高まります。
- 変形性膝関節症がある膝にバンデージを巻くことでより正確に膝関節の動きを認知できるようになることが報告されています15。
- 膝にスリーブで圧力をかけることでジャンプ時のバランスが安定しやすくなることが報告されています16。
- サポーターによる膝関節の動きの認知や膝関節の安定性が安定性が少し改善されることが報告されています17。
このようにサポーターをつけることでの安心感というのは、膝関節が圧迫されることが関係しているのかもしれません。
関節を圧迫することによるメリット
サポーターが膝の機能を高めるメカニズムには、膝の腫れで関節を圧迫していることと関係があるかもしれません。
- 腫れを再現した状態のほうが関節の動きをより正確に感知していたという研究結果があります18。
- 生理食塩水を膝に注入し、腫れを再現した状態のほうが片脚立ちの姿勢が安定していたことが報告されています19。
このように膝の関節内の圧力が高いことで短期的に膝の機能を助けるというメカニズムが働いている可能性があります。
膝のサポーターをつける意味
前十字靭帯再建手術後のリハビリ初期において膝のサポーターをつけることが一般的ですが20〜22、
その後のスポーツの復帰の時期になってくると膝のサポーターだけで怪我を防ぐことは難しくなってきます。
そして、膝のサポーターの効果には個人差があるかと思います。
サポーターに限界はありますが、膝の負荷を軽減する効果がある場合も十分にありますし、その効果は人それぞれ違うと思います。
文献がどうこうよりも、サポーターをつけてみて身体に好反応があるのかどうか?ということをしっかり感じ取ることが大切だと思います。
膝のサポーターをつけることで、なんだか安心するというケースもあるのではないかと思います。
心理的な要素というのは怪我に関係していたりするので、「これをつけているから大丈夫!」と思えるような心理的な効果があるのならば、サポーターをつける価値はあると個人的に思います。
膝の機能を高めることについて
膝のサポーターは欠かせないものかもしれませんが、やはりどうしてもサポーターだけでは限界があります。
できるならばリハビリにしっかりと取り組んで膝の機能を回復させることが大事だと思います。
膝周りの筋肉をしっかりと鍛えることでもサポーターのように膝を安定させることができますし、前十字靭帯損傷を予防することができます。
まとめ
膝のサポーターに大きな効果があるとする研究結果は少なく、まずはリハビリなどで膝の機能を回復させることのほうが重要です。
そして文献がどうであれ個人差があるため、サポーターをすることで何だか効果を感じられるのであればサポーターを使う意味はあるのではないでしょうか。
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- https://www.fukuoka-mirai.jp/orthopedics/553/ (医療法人相生会福岡みらい病院 膝関節前十字靱帯(ACL)の再建術(1) ~治療方針~)
- https://www.zamst.jp/tetsujin/knee/ (ザムスト Sports Medicine Library ヒザ)
- https://www.muellerjapan.com/guide/knee-supporter/ (Mueller Japan ひざサポーターの選び方)