前十字靭帯断裂は突発的に起こるため、偶然の事故という印象も強いかもしれません。
しかし靭帯にも耐久性や強度の違いというものがあり、近年の研究では前十字靭帯の耐久性の低下が靭帯断裂と関連している可能性も考えられています。
ポイント
- 日々の練習で前十字靭帯に軽微な損傷が起こり、腫れや炎症へとつながることがあります。
- 十分に回復しないままダメージが蓄積していくと前十字靭帯の耐久性が低下する可能性があります。
- 突発的な前十字靭帯断裂も日々のダメージの蓄積が関係している可能性があります。
前十字靭帯のサイズと靭帯断裂のリスク
一般的に靭帯のサイズが小さいと耐久性に劣ると考えられており、前十字靭帯のサイズが小さいことで靭帯断裂のリスクを高める可能性があります。
(Chaudhari et al 2009より引用)
- 前十字靭帯のサイズが小さい人のほうが前十字靭帯断裂を引き起こしやすいことが、4年間の追跡調査で明らかになっています1。
- 前十字靭帯を断裂した人は逆足の前十字靭帯も小さく、健康的な人に比べて耐久性に劣る可能性があるようです2。
このように前十字靭帯の大きさや耐久性なども影響し、靭帯が脆い状態では前十字靭帯断裂をしやすくなる可能性があります。
長年のトレーニングで前十字靭帯が強くなる?
ここ最近ではトレーニングで靭帯もある程度鍛えられる可能性が示唆されています。
(Grzelak et al 2012より引用)
ある研究ではウェイトリフティングの選手のほう一般の人よりも前十字靭帯が大きいことが報告されています3。
このことから継続的なトレーニングを行うことで靭帯もある程度強くなる可能性が考えられます。
靭帯への適切な負荷の与え方
適切な負荷を与えることで前十字靭帯も強くなる可能性がありますが、
過剰な負荷を与えてしまうと前十字靭帯の腫れや炎症へとつながり、かえって耐久性を落とす結果となる可能性があります。
サッカー選手をシーズンを通して追跡調査した研究では、利き足の前十字靭帯はシーズン後に靭帯が大きくなっており、一方で利き足でないほうの前十字靭帯には腫れが報告されていたそうです4。
この結果は負荷の与え方次第で靭帯が異なる反応を示すということを表していると思います。
現状では前十字靭帯を直接鍛えるような適度な負荷は明らかにされていないため、靭帯を直接鍛えるというよりも、
適度な休息をとりつつ、筋力トレーニングやスポーツなどで適度に身体を鍛えていくことが賢明ではないかと思います。
まとめ
突発的な前十字靭帯断裂の裏には、日々の疲労の蓄積などによって前十字靭帯の耐久性が落ちていたこともひとつの原因かもしれません。
膝に過度な負荷がかからないよう適度な休養を取りつつスポーツを行うことが役立ちます。
<参考文献>
Whitney DC, Sturnick DR, Vacek PM, et al. Relationship Between the Risk of Suffering a First-Time Noncontact ACL Injury and Geometry of the Femoral Notch and ACL. Am J Sports Med. 2014;42(8):1796-1805. doi:10.1177/0363546514534182
Chaudhari AMW, Zelman EA, Flanigan DC, Kaeding CC, Nagaraja HN. ACL-Injured Subjects Have Smaller ACLs Than Matched Controls: An MRI Study. Am J Sports Med. 2009;37(7):1282-1287.
Grzelak P, Podgorski M, Stefanczyk L, Krochmalski M, Domzalski M. Hypertrophied cruciate ligament in high performance weightlifters observed in magnetic resonance imaging. Int Orthop. 2012;36(8):1715-1719.
Myrick KM, Voss A, Feinn RS, Martin T, Mele BM, Garbalosa JC. Effects of season long participation on ACL volume in female intercollegiate soccer athletes. J Exp Orthop. 2019;6(1):12.