ストレッチには様々な効果があり、身体に良いものとして認識されていることかと思います。
ここでストレッチに取り組むことがマラソンの役に立つのか、科学的根拠を踏まえながらその効果をご紹介していきたいと思います。
マラソンのタイムとの関係性
ストレッチ直後のランニングのタイム
じっくりと時間をかけて筋肉を伸ばす、いわゆる静的ストレッチではストレッチ直後にマラソンのパフォーマンスさえ落ちる可能性があることが指摘されています1。
走るの前のウォームアップとしてダイナミックストレッチを取り入れるとパフォーマンスを落とさずに走ることができると言われていますが、
マラソンのタイムを向上させる効果があるという強い科学的根拠は確認されていないようです2・3。
ストレッチの習慣によるマラソンのタイムの変化
ある研究でストレッチを10週間続けた効果を調べたところ、マラソンのタイムは改善しなかったことが報告されています4。
柔軟性が高いほど速く走れるというわけではなく、そもそもエリートマラソンランナーの多くはそんなに柔軟性が高くないという研究結果が複数報告されています1。
このためストレッチを続けて身体を柔らかくしていったところで、マラソンのタイムを改善する効果が限られているわけです。
ランニングフォームの改善について
ストレッチを取り入れることでランニングフォームを改善してマラソンのタイムを改善できる可能性はあります。
ランニングフォームを改善するためのストレッチには様々なものがあります。
例えば肩の前部のストレッチなどはランニングフォーム変化を感じやすく、楽に走りやすくなることが多いかと思います。
とはいえランニングフォームの改善というのは簡単なものではありません。
ランニングフォームの改善効果を調べた研究はたくさん存在するのですが、その多くがマラソンのタイムの向上がみられなかったという結果になっています5。
残念ながらランニングフォームを改善してタイムを伸ばすのは再現性が低い方法であると思います。
専門家が明確な意図をもってやるのならばストレッチによってランニングフォームが改善されるかもしれませんが、なんとなくストレッチするだけでは簡単にマラソンのタイムは伸びないのが現実ではないでしょうか。
筋肉痛
ストレッチの効果のひとつに筋肉痛を減らすというものがあります。
ストレッチの筋肉痛に対する効果を調べた研究結果によると、マラソン後のストレッチが筋肉痛を減らす可能性はあると言えるかと思います6。
とはいえ筋肉痛を減らすという目的ならば、ストレッチよりもマッサージのほうが筋肉痛を減らす効果が高いことが研究で明らかになっています7。
怪我予防のためのストレッチ
ストレッチの習慣と怪我予防
ストレッチの効果のひとつに怪我を減らすというものがあり、様々なスポーツでストレッチが怪我予防の一環として取り入れられています。
実際ストレッチを取り入れることで怪我が減るという研究結果が多く確認されていて、ストレッチを取り入れることは大事なことであると思います。
しかし、マラソンにおいてはストレッチが怪我を防ぐというのは科学的根拠がないことが報告されています6。
マラソンの怪我というのはストレッチを続けるだけで簡単に防ぐことはできないと思います。
ランナー膝の改善効果
ランナー膝など痛みを抱えている人は身体が硬い人が多く、ストレッチには痛みの改善効果があると思うかもしれません。
しかし、実際にランナー膝に対してストレッチを行なった研究では、ストレッチに高い効果はみられなかったことが報告されています9。
この研究結果をもってストレッチがランナー膝の改善に全く役に立たないと言いたいわけではなく、マラソンランナーは闇雲に柔軟性を高めればいいわけではないということです。
ランナー膝のメカニズムを理解した上で、明確な意図を持ってストレッチをすることが大切であるかと思います。
まとめ
一般的にストレッチはスポーツにプラスの効果が働くことが多いのですが、マラソンに関してはストレッチにそこまで高い効果がないという研究結果が多くあります。
なんとなく身体に良さそうだからストレッチをするだけでは思うような効果が得られない可能性があります。
身体の仕組みを理解した上で明確な意図をもって取り組むことが高い効果を引き出すポイントになります。
<参考文献>
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