肘の痛み

野球肘を防ぐためのストレッチ

2024年1月31日

米国BOC-ATC アスレティックトレーナー 佐川博史

野球肘になると長期離脱を余儀なくされるなど、野球選手にとって選手生命に関わるかもしれない怪我になりうる可能性があります。

ここで野球肘を防ぐためのストレッチをご紹介していきたいと思います。

 

野球肘と柔軟性の関係

肩の可動域の低下(GIRD)

肩関節の内旋の可動域低下はピッチャーなど肩を挙上するスポーツによくみられる症状でGIRDなどと呼ばれています。

内旋の可動域が反対側と比べて20°減少する場合などに怪我のリスクを高めると考えられています1〜4

肩の内旋の可動域の低下

ここで内旋の可動域が減少する要因として主に二つあります。

ひとつが骨の形状の変化による影響であり、骨の適応による可動域の変化ならばそこまで大きなリスクにならないという考え方があります。

内旋の可動域が減少していても外旋の可動域が増加し、図のように内旋と外旋の可動域の合計に変化がないときは骨が適応している状態だと考えるそうです。

怪我のないピッチャーでもある程度の骨がストレスに適応しこのような状態になりやすいそうです、このような骨の変化があると球速も上がるという研究結果もあります

筋肉による肩の内旋の可動域の低下

同じ肩の内旋の可動域の減少でも筋肉や肩の後部の関節包などが硬くなることは怪我のリスクが高まると言われています。

これは内旋と外旋の可動域の合計が減少している状態を指します 。

内旋の可動域が反対側と比べて20°以上減少し、かつ内旋と外旋の可動域の合計が反対側と比べて5°以上減少した場合に怪我のリスクが高まることが報告されています

 

股関節の可動域の低下

股関節の内旋の可動域の測定

肘や肩を痛めている野球選手は股関節の内旋の可動域が低下している傾向にあることが報告されています7〜9

一方で股関節の可動域は関係していなかったという報告もあります10・11

現場の感覚としては股関節の可動域を向上させることでピッチングがスムーズになり、全身をうまく使った投球動作ができるようになり肘の負担を和らげることができます。

野球肘を防ぐためにも股関節の可動域を向上させておいたほうが良いと思います。

 

ストレッチ方法

肩の動的ストレッチ

野球のウォームアップとして使える肩周りのストレッチです。

肩をダイナミックに動かして、滑らかに動かすような感覚を身につけられるというのも大きなメリットだと思います。

運動前の静的ストレッチは筋肉に力が入りにくくなり、投球パフォーマンスに影響を与える可能性が議論されているので12、動的ストレッチのほうが無難であると言えるでしょう。

マエケン体操などもこういった動的ストレッチの一種ですが、その独特な動きにインパクトがあり、有名になりましたね。

 

肩の静的ストレッチ

スリーパーストレッチと呼ばれる肩のストレッチがあります。

野球肘を減らす効果があるという科学的根拠があるとされるストレッチ方法ですが13、このスリーパーストレッチをしているときに肩に違和感を覚えるという声も少なくありません。このストレッチに反対しているメジャーリーグのトレーナーもいるくらいです。

 

クロスボディストレッチと呼ばれる方法があり、こちらは比較的肩の痛みが出にくいストレッチであると言えます。

このストレッチによって野球選手の肩の可動域が改善されることが報告されていて14、スリーパーストレッチよりも効果が大きかったとする研究結果もあるくらいです15

肩ストレッチ

 

 

背中の後ろで手を組むようなストレッチがあります。

可動域が足りない場合にはタオルなどを使って腕を引っ張るのですが、こちらのストレッチも伸ばしているときに違和感が出ることがあり、継続的にストレッチをしてもあまり効果がないことが珍しくありません。理由としては肩を複雑な方向に動かすので骨同士がぶつかって筋肉がうまく伸びないためだと考えられます。

そして、このストレッチにおける肩の可動域と野球肘の関連性がそこまで強くないという問題もあります。

 

専門家による肩のストレッチ

メジャーリーグなどの現場では多くの選手が練習前後に専門家のストレッチを受けています。

(Williams et al 2013)

次の動画ではほんの一部しか紹介されていませんが、私がメジャーリーグの現場にいたときには1選手あたり5〜10分ほどの時間をかけて肩に様々な種類のストレッチを施していた印象です。

やはり専門家にやってもらうストレッチの効果は抜群で、肩が一気に柔らかくなります。

メジャーリーグの現場では試合後のストレッチとは別にリカバリー用のメニューがあったりします。

 

前腕のストレッチ

前腕の筋肉を伸ばすためのストレッチがあります。

しかし、こういったストレッチはうまく前腕の筋肉を伸ばすことが難しいことが珍しくありません。

メジャーリーグでも野球肘を防ぐために前腕のストレッチをやるというケースはそんなに多くない印象でした。

 

股関節のストレッチ

野球肘を防ぐための股関節のストレッチには様々なものがあります。

少数派ながらもヨガを取り入れているメジャーリーグの球団があるというのを耳にしたこともあります。

野球肘を防ぐだけでなく投球動作の改善のためにも、様々な股関節のストレッチに取り組むことが役立つと思います。

 

しかしながら、野球肘を防ぐために重要な股関節の内旋に対して効果的なストレッチはあまり存在しないのが現状ではないかと思います。

ストレッチよりも筋膜リリースやマッサージなどのほうが効果はあると思いますが、やはり自力で股関節の内旋の可動域を改善することは簡単ではないと思います。

このため整体などで専門家の施術を受けるなどという選択肢も考えてみてもいいかもしれません。

 

まとめ

野球肘を防ぐためにはストレッチで肩や股関節の柔軟性を高めることが役立ちます。

ストレッチの種類によっては痛みや違和感が出てしまったり、効果が弱かったりするので、身体に合ったメンテナンス方法を見つけることは大事だと思います。

 

<参考文献>

  1. Kibler WB, Sciascia A, Thomas SJ. Glenohumeral internal rotation deficit: pathogenesis and response to acute throwing. Sports Med Arthrosc Rev. 2012;20(1):34-38.

  2. Burkhart SS, Morgan CD, Kibler WB. The disabled throwing shoulder: spectrum of pathology Part I: pathoanatomy and biomechanics. Arthrosc J Arthrosc Relat Surg Off Publ Arthrosc Assoc N Am Int Arthrosc Assoc. 2003;19(4):404-420.

  3. Rose MB, Noonan T. Glenohumeral internal rotation deficit in throwing athletes: current perspectives. Open Access J Sports Med. 2018;9:69-78.

  4. Tokish JM. Acquired and adaptive changes in the throwing athlete: implications on the disabled throwing shoulder.Sports Med Arthrosc Rev. 2014;22(2):88-93.

  5. Takenaga T, Sugimoto K, Goto H, et al. Posterior Shoulder Capsules Are Thicker and Stiffer in the Throwing Shoulders of Healthy College Baseball Players: A Quantitative Assessment Using Shear-Wave Ultrasound Elastography. Am J Sports Med. 2015;43(12):2935-2942.

  6. Manske R, Wilk KE, Davies G, Ellenbecker T, Reinold M. Glenohumeral motion deficits: friend or foe? Int J Sports Phys Ther. 2013;8(5):537-553.

  7. Sekiguchi T, Hagiwara Y, Yabe Y, et al. Restriction in the hip internal rotation of the stride leg is associated with elbow and shoulder pain in elite young baseball players. J Shoulder Elbow Surg. 2020;29(1):139-145.

  8. Saito M, Kenmoku T, Kameyama K, et al. Relationship Between Tightness of the Hip Joint and Elbow Pain in Adolescent Baseball Players. Orthopaedic Journal of Sports Medicine. 2014;2(5).

  9. Scher S, Anderson K, Weber N, Bajorek J, Rand K, Bey MJ. Associations Among Hip and Shoulder Range of Motion and Shoulder Injury in Professional Baseball Players. J Athl Train. 2010;45(2):191-197.

  10. Xinning Li, Ma R, Hanbing Zhou, et al. Evaluation of hip internal and external rotation range of motion as an injury risk factor for hip, abdominal and groin injuries in professional baseball players. Orthopedic Reviews. 2015;7(4):111-115.

  11. Camp CL, Spiker AM, Zajac JM, et al. Decreased Hip Internal Rotation Increases the Risk of Back and Abdominal Muscle Injuries in Professional Baseball Players: Analysis of 258 Player-seasons. J Am Acad Orthop Surg. 2018;26(9):e198-e206.

  12. Williams M, Harveson L, Melton J, Delobel A, Puentedura EJ. The Acute Effects of Upper Extremity Stretching on Throwing Velocity in Baseball Throwers. J Sports Med (Hindawi Publ Corp). 2013;2013:481490. doi: 10.1155/2013/481490. Epub 2013 Nov 7. PMID: 26464880; PMCID: PMC4590899.
  13. Reuther KE, Larsen R, Kuhn PD, Kelly JD 4th, Thomas SJ. Sleeper stretch accelerates recovery of glenohumeral internal rotation after pitching. J Shoulder Elbow Surg. 2016 Dec;25(12):1925-1929. doi: 10.1016/j.jse.2016.07.075. Epub 2016 Oct 10. PMID: 27745803.
  14. Yamauchi T, Hasegawa S, Nakamura M, Nishishita S, Yanase K, Fujita K, Umehara J, Ji X, Ibuki S, Ichihashi N. Effects of two stretching methods on shoulder range of motion and muscle stiffness in baseball players with posterior shoulder tightness: a randomized controlled trial. J Shoulder Elbow Surg. 2016 Sep;25(9):1395-403. doi: 10.1016/j.jse.2016.04.025. Epub 2016 Jul 27. PMID: 27475455.
  15. Mine K, Nakayama T, Milanese S, Grimmer K. Effectiveness of Stretching on Posterior Shoulder Tightness and Glenohumeral Internal-Rotation Deficit: A Systematic Review of Randomized Controlled Trials. J Sport Rehabil. 2017 Jul;26(4):294-305. doi: 10.1123/jsr.2015-0172. Epub 2016 Aug 24. PMID: 27632891.
  16. McClure P, Balaicuis J, Heiland D, Broersma ME, Thorndike CK, Wood A. A randomized controlled comparison of stretching procedures for posterior shoulder tightness. J Orthop Sports Phys Ther. 2007 Mar;37(3):108-14. doi: 10.2519/jospt.2007.2337. PMID: 17416125.
  17. Williams M, Harveson L, Melton J, Delobel A, Puentedura EJ. The Acute Effects of Upper Extremity Stretching on Throwing Velocity in Baseball Throwers. J Sports Med (Hindawi Publ Corp). 2013;2013:481490. doi: 10.1155/2013/481490. Epub 2013 Nov 7. PMID: 26464880; PMCID: PMC4590899.

-肘の痛み

© 2020 biomechclinic.com